今週は大手企業も含めて多くの会社が内定式を行っています。内定式に参加した学生さんは、就活が終わってやれやれと一安心しているかもしれませんが、まだ内定をもらえずにプレッシャーを感じながら就活をしている学生さんもいると思います。

就職先を決めるというのは人生初めての経験ですから、なかなかに大変なことだとお察しします。もちろん私にも経験がありますからその気持ちはよくわかります。はたしてこの会社が自分に合っているのか、そもそもこの業界でやっていけるのか。はたまた、社会人になるよりも別の道もあったのではないか、などなど。

先日、仲良くしているご家庭の20歳くらいのお嬢さんのお笑い発表会に行ってきました。彼女は高校を出た後、お笑い芸人になるという夢をかなえるべくあるプロダクションの練習生となりました。今回はそのプロダクションとの専属契約を獲得するためのオーディションとなる発表会だったのです。

最近はテレビだけではなくユーチューブなどでも色々な芸人さんがコンテンツを提供しているので、芸人を目指す若い人たちはそれらを見てよく研究しているようです。今回見に行った発表会でもたくさんの出場者がいましたが、なかなかに上手く演じているので感心しました。

夢を追いかけるというのは素晴らしいことです。スポーツ選手でも歌手でもお笑い芸人でも、成功すれば有名になれるし高収入も得られるでしょう。しかし、何よりも自分の決めた目標に向かって一途に努力するという生き方そのものが価値あるものとなります。しかし、現実には成功する人はほんのわずかですし、本人の才能だけではなく運も結果に左右します。

ただ一方、自分の明確な夢というものがはっきりしない人の方が多いのも現実です。就活においても、あまり興味が無い業界であったが企業側から内定をもらえたのでその業界に飛び込んだという人もいるでしょう。

明確な夢を持っている人はかっこよく見えますが、まだはっきりとした夢が無いとか、やむにやまれぬ事情で就職を決めた人。なかには親の介護のために早く就職して安定した収入を得たいという人などもいます。傍から見ると会社員というのは平凡な生き方に見えるかもしれませんが、自分で働いて収入を得るということはそれ自体が素晴らしいことであり幸せな事でもあります。今ちょうど、地球の裏側ではウクライナ戦争が起きています。その他にも様々な紛争や災害で働きたくても働けない、家族を養うこともできず親孝行もできないという人々がたくさんいることを考えると、収入を得られる仕事があるということ自体が大いに感謝すべき事だと思います。

ここで私の体験を話します。

私は二十代から三十代にかけて仕事をしながら趣味で仲間とバンド活動をしていました。そのころは毎月ライブハウスで演奏しておりましたが、あるときいつものライブハウスで音楽とお笑いのコラボというイベントがあり参加しました。そのイベントが終わったあとの出演者同士での打ち上げの時の話です。

参加者の中に、わりと知られたお笑いコンビがいました。とはいっても好きな人は知っているという程度で、あまりテレビにも出ていないのでブレークしていない芸人さんという位置づけでしょうね。片方がリーダー格のAさんで、相方は彼の後輩でした。打ち上げも盛り上がってきたころ、そのAさんが私に話しかけてきました。何を話したかほとんど覚えていませんが、バンド活動はどのくらいやっているのか、このライブハウスにいつも出ているのか、といった話だったのでしょう。そのなかで、Aさんが「プロを目指しているんですか?」と聞いてきました。私は、「いや、自分たちはアマチュアで皆それぞれ仕事をしています。」と返したら、急に態度が冷たくなり会話はすぐに終わりました。

しばらくして酔っぱらったAさんの大きな声が聞こえてきました。見ると後輩の相方に何やら熱っぽく語りかけていました。内容はこんな感じでした。

俺たちは今は売れていないがいつか必ず売れてやる。この世界で売れっ子になればうんと稼げるんだ。たけしさんやさんまさんを見てみろ、サラリーマンをやっているような奴らには考えもつかないような生活ができるんだ。などなど。明らかに私たちのようなアマチュアをあてこすった内容の話でした。

住む世界が違うので議論しても仕方ないと黙っていましたが、しばらくこちらの腹の虫も収まりませんでした。だから未だにこの話をよく覚えているわけです。就職してサラリーマンをして生活の心配のない状態で趣味として音楽をやっているというのが彼の美学には受け入れられなかったのでしょうが、アマチュアであろうと音楽を演奏して楽しむのは自由だし、他人に蔑まれるいわれはありません。

あれからもう30年経ちました。どうもあの時の芸人さんは今でも夢を追っているようですが、売れているという話は聞きません。今にして思うと、Aさんは社会人として働いている人たちに対してある種のコンプレックスを持っていたのかもしれません。その裏返しで私に対して批判的な態度を示したのでしょう。

さて、私は音楽の才能もなかったのでそのままITの仕事を続けて今に至っています。人の人生を単純に比較しても意味がありませんが、大きな夢を持ちそれを追い続ける人が偉くて、平凡に見える普通の人がその人より劣るということはありません。この人間社会は、地道に働いて、しっかり稼いで、きちんと納税している人々が支えています。皆さんは立派な社会人としての第一歩を踏み出そうとしているのですから、胸を張って生きてください。夢というのは別に大げさなものである必要はありません。

最後になりますが、立派に働ける体に生んで育ててくれた親御さん、仕事を作り出してくれている会社、安全に働けるこの国と、その国を守り続けてきてくれたご先祖様に感謝する気持ちを忘れずにいてください。

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