昨年末に日本海海戦の話をしましたが、それに関連した話です。

日本海海戦での作戦を立案した秋山真之ですが、その彼がアメリカ留学中に書籍の余白にメモ書きしたものが残っており、後に「天剣漫録」として伝えられています。
その中に「自啓自発せざる者は、教えたりとも実施すること能わず」という一文があります。

自分から目的意識を持ち、自己を磨くという気概を持たない人間に、いくら物を教えてもその知識を実践において役立てることはできないという意味です。
どれだけ優秀な教師や先輩が、一流の教材を使って教えたとしても、当の本人がそれを生かしていこうという気概が無ければ単なる知識で終わってしまいます。
きっと秋山自身が後輩を指導していく中で感じた嘆きのようなものだと思います。「自啓自発」という言葉は普段の生活ではあまり使いませんが、以前私が書いた「セルフスターター」と同じような意味でしょう。

この言葉は、技能を持って飯を食っていこうとする人であれば、寿司職人であろうと大工であろうとシステム技術者であろうと、誰にでも当てはまります。

私が社会人1,2年生の頃です、派遣先では時々やる仕事がなくなることがありました。ある程度割り振られた仕事はあるのですが、仕様が未定であったり、SEの設計が遅れていたりして次の作業に進めず待ち状態となってしまいます。

このようなときはチームリーダーのところへ行って、「手が空いているんですが何かやることはありませんか?」と仕事をもらいに行きます。しかし、すぐに振れるような仕事はそう都合よく転がっていません。そんなとき、必ずいわれるのが「マニュアル読んどいて」の一言です。

当時はFACOMのUシリーズというミニコンを使っていましたが、書棚にはこのミニコンに関するマニュアルが何十冊も並んでいました。この中から「コマンド使用手引書」とか、「なんたら導入手引」といったようなマニュアルを引っ張り出して読み始めるのですが、5分もするとすぐにあくびが出てきます。当時はコンピュータが一人一台などという環境にはありませんから、マニュアルを見ても実際に試すことも出来ません。一日中ただ椅子に座ってマニュアルを読み続けるのは大変に辛いものでした。こんな日が2、3日続くと、もう本気で転職を考え始めたものです。

我々は出向社員(派遣社員)でしたから、元請の人たちも他社の社員に対してそんなに親身に面倒は見てくれません。仕事が忙しくて徹夜続きになるのも辛いですが、やることがないのにじっと席についているのもやりきれません。

そこで、いい加減飽きてくると知り合いの席へ出かけて行って無駄話をしたり、ひどいときにはこっそり家に帰って昼寝をしたり買い物に行ったりしました。こんなときにばったり自社の社長に出くわして大目玉を食うようなこともありました。

私もこの恐怖の「マニュアル読み」を指示されると、最初のうちは言われるままに読んで(読むふりを)していましたが、そのうち自分でテーマを決めて簡単なツールを作ったり、自作のプログラムをまとめてライブラリ化してみるなど、創作意欲がわくような作業を自分で作り出しました。そうすると今度はそれが楽しくなり、仕事の方が暇になることを心待ちにするようになりました。そうこうして作ったものは、いずれ上長にも認められて実際にシステムに活用されたりしたものですから、ますますやる気が出てきたものです。

このような時期に自分で色々研究したことは大変役に立ったと思いますし、これがいわゆる「自啓自発」だと思います。別に難しいことではないでしょう?
自分が楽しくなるような工夫をすることで、自分の時間を有効に使え、人の役にも立つのであれば、これはもう見つけ物です。

仕事でも趣味でも同じですが、最初はいやだと感じたものが続けていくと気持ちが乗ってくることがあります。小説なども読み始めはかったるく感じていたのに、読み進めるうちにすっかりはまり込んで徹夜で読みふけるという経験を持っている人もいるでしょう。何事もエンジンがかかるまでには少々時間がかかることがあるでしょうから、少し我慢して続けることも大切です。

余談
ついでに余談ですが、秋山真之には好古という兄がおりました。好古は陸軍で騎兵を創立して日露戦争における陸戦での勝利に貢献し、後に陸軍大将になりました。つまり秋山兄弟は、兄は陸軍、弟は海軍で大きな役割を果たしたのですが、兄弟揃ってこのように活躍したということは家庭環境によるものでしょうか。また、当時の満州軍総司令官の大山巌は西郷隆盛の従兄弟で、海軍大臣の西郷従道は隆盛の弟です。

まとめ

  • 秋山真之の語録「自啓自発せざる者は、教えたりとも実施すること能わず」
  • 自啓自発してやろうという意欲が出るまで、忍耐が必要
    (最初から仕事が楽しくて仕様が無いという人は別ですが)
  • 物事に興味を持つように自分で工夫する。
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