– 前回からの続き –

植木を移す作業は当分続いた。大津の寺で掘り起こし、根回しをしている間に、京都の赤山禅院では別のグループが穴掘りをして準備をする。そして午前1便、午後2便という具合に植木を積んだトラックが往復する。大物を吊上げるために動員したクレーンが転倒することもあったが皆不思議と怪我などは一切しなかった。でも風呂には10日に一度入れるかどうかという程度で相当に不潔であったはずだ。

春休みも終わりかけの4月5日、植木の作業もクライマックスとなっていた。この頃は雨がよく降ったように覚えている。連日泥まみれになって働いている我々を見て、ある信者さんが御前様にこう尋ねた。「こんな雨の日に作業させるのは可哀そうだし危険ではありませんか?」。それに対して御前様はこうお答えになった。「どんなことがあろうと、決めた日に決めたことをしないと人間がだらしなくなる」。

当時の私は、この話を大したこととはとらえておらず、たまたま日記に書いたので忘れずにいたのであったし、「決めたからって雨の日に外で働かされるのは迷惑な話だな」程度にしか思っていなかったはずである。しかしこの言葉は非常に大切な意味を持っていると後にして思うようになった。

社会に出て仕事をするようになると、自分がやるべきことをきちんとやれるかどうかが大変重要になってくる。学生のうちは宿題を忘れようが友達との約束をすっぽかそうがそれほどの実害はないが、社会人となるとそうはいかない。言ったことをきちんとやれるかどうかがその人の評価になるし、もっと怖いのは自分が自分に対して持つ評価、セルフイメージに直接関わってくるからだ。

友達と何か約束をしたのに忘れたり、直前になってなんだか面倒臭くなってほったらかしたり、自分の不注意で約束の時間に遅刻したことは誰でも思い当たることがあると思う。この時に自分を責めたりしないだろうか? あるいは「またやってしまった」とか「俺はやっぱり駄目なんだ」とか。また、自分を悪者にしたくなくて責任転嫁を図ったりしても結局は自分に嘘はつけない。こんなことが続くとセルフイメージがどんどん低くなっていく。これは自分自身を傷つける行為となる。逆に、たとえ些細な約束でもきちんと守ることができると、自分自身に対する評価が高まり、人からも評価され、結果的に自信が生まれてくる。

私が社会人になって色々な書物に接する中、「やろうと思ったことを紙に書く」ことが想像するよりもはるかに大切であると紹介する内容を散見するようになった。能率手帳などにも必ずTODOリストがある。決めたことをきちんとやれる人の中で、強固な意志と記憶力を持っており、紙に書かなくても必ず実行できるという人はほとんどいないと思おう。大多数の人たちは、やり方はいろいろかも知れないが必ずやろうとすることを記録しているはずだ。これは簡単な習慣だからやっていない人はぜひ試して欲しい。こんな簡単な投資(紙と鉛筆?)で、得られるものははかり知れない。

TODOリストに書いた項目を1つ1つ実行して、チェックをつけていくにつれ自分はこれだけやれるのだという自信が生まれてくるだろう。先の御前様が言いたかったのもこれだと思う。なにも雨の日に無理して実行するのが必ずしも大切というわけではないと思う。雨の日に作業をするのが危険ならば、最初から雨が降ったら別の日に実行するという計画にしておけばよいのであり、必ず実行するということこそが大切なのである。

今はPCでOutlookを利用していることだろうが、この中の「仕事」機能を使うのもよいアイディアだと思う。メール機能しか使わないというのは非常にもったいない話である。あるいは古い名刺などをいつも持ち歩いて、思いついたらその裏にメモをするというのもお勧めする方法である。記憶というのは簡単に消えてしまうから、思いついたら記録するという行動の癖をつけることが大切なのである。

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