朝礼でのスピーチではありませんが、番外編として掲載します。

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これは私が4、5歳のころつまり昭和41、2年頃の記憶である。
その日は何か特別な日だったのか、同じ長屋の住人達が集まって何かを始めようとしていた。場所は長屋の真ん中を貫く私道である。そこは洗濯物などを干す共有スペースであり、私たち子供の遊び場でもある。

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そこに七輪と大きなやかんが置かれ湯気を出していた。たぶん屋外に置かれたやかんを見たのはそれが初めてだったであろう。そして傍らには竹竿が何本も置かれていた。私は子供心に一体これから何が始まるのかと興味津々だった。お祭り以外でこれだけ大人が集まって何かをするのを見るのは初めてだった。皆は、大騒ぎしながら何かの準備をしているようだった。

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それからややしばらくして、それは始まった。
長い竹竿に、それよりも長くて青いビニールの袋をすっぽりとかぶせた。しかしそのビニールの袋は竹の太さに比べてかなり太かったので、だぶだぶのズボンのようだった。このままでは何のためにそんなことをしているのか見当もつかなかったが、そのあとの魔法のような手順をみて、何が出来上がるかすぐに分かった。そのぶかぶかの袋をかぶった竹竿を数人が持ち、一人がやかんをもってそれを待ち受けた。

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「それっ」という掛け声とともに、竹竿を持った人たちが竹を突き出すように走り出す。やかん係が湯を注ぐ中を竹が勢いよく通り抜けていく。すると、ぶかぶかだった青いビニールの袋が見る間に縮んで竹に密着し、それは普段見なれた青い物干し竿になっていた。
竹竿の頭から尻尾まで一通り湯をかけ終わると、両端の余ったビニールを多少余裕を残してハサミで切り、はみ出たビニールを竹の中に押し込んで一本上がり。こんな具合で立派な物干し竿が出来上がった。

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それからいつまで続いたのか、何本作ったのかは憶えていないが、その後、この長屋の共同物干しには出来立ての真っ青な物干し竿が空中に横たわっていた。
長屋の住人たちが協力して物干し竿を作る、それだけのことではあるが、今の東京ではなかなか見ることのできない情景であろう。ほのぼのとした楽しい思い出の一つである。

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