【9月28日の朝礼でのスピーチより】
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冒頭で述べたジャックウェルチの言う「対等な関係」を考えてみます。果たして大きな会社と小さな会社が対等に付き合えるのでしょうか。発注側と受注側で対等にものが言い合えるのでしょうか。ここで肝心なのは「力」です。「力」の有無が発言力を高め、「力」があるからこそ互いに認め合い「対等に」付き合えるのです。
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もちろんパートナーとして長く付き合うには「信頼関係」が必要ですが、「力」がないと、まず最初の対等な関係を前提とした「お付き合い」ができないのです。お互いに力を認め合い、付き合い始めてから信頼関係は出来ていくのであり、最初から主人と奴隷のような関係では、そこから対等な関係に修正していくことは容易ではありません。
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国と国との関係でも同様です。江戸幕府がアメリカと結ばされた日米修好通商条約が不平等で片務的なものになったのは、当時の日本が文明的にも軍事的にも遅れていたから、つまり「力」が劣っていたからです。現代の日本には技術力はあるが軍事力がありません。自衛隊は世界でもトップクラスの装備を備えていますが、外向きに使うことのできない武力は相手に脅威を与えないので力になり得ません。日本がいくら核撲滅やCO2削減を叫んでも、世界にさほどの影響を与えないのは、日本に国としての力が足りないからです。だから無法国家から国民を守ることすらできず、誘拐されたままとなっているのです。
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それでも、ある程度存在感を示せるのは、金力があるからです。それと、過去に大きな戦争を起こして賛否は別として、あなどれない国として世界中に記憶されているからです。それも遺産のようなもので、時がたてばその効果は薄れていくものです。今後、アジアやロシア、アフリカなどの新興国が台頭し、日本の唯一の力である金力に陰りが出てきたとき、何をもって日本という国を世界に認めさせるのかを真剣に考えなければならないと思います。
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力とは、単純には武力だったり、資金力だったり、技術力だったりと色々ありますが、経営においては一般にいわれる経営資源「人」、「物」、「金」が真っ先に思い浮かびます。
しかし、中小企業にはこうした経営資源が不足しているのが当たり前です。ということは、中小企業には力がないのでしょうか。
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先の平田牧場の例では、商品を納めていた相手は流通の神様、中内功社長率いるダイエーです。平田牧場がダイエーとの取引を打ち切ったのは75年ころらしいですが、その頃すでに1兆円近くの売り上げがあり、95年には3兆円を超すのですから旭日の勢いというところでしょう。では、なぜそのようなビッグパワーに刃向って、自分で価格を決めて売ることが可能になったのでしょうか。
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ここには、平田牧場の豚肉の価値を認めてくれる消費者という味方がいたことが大きな勝因です。いわゆるファンですね。このファンが次第に増えてある程度の規模になったから、流通大手にも負けずに独自のルートで販売することができたのです。つまり、熱烈なファンである多くの消費者を持っているということが大きな力となるのです。企業の力とは、資金力や規模だけではないということがこの例からわかります。他では容易に真似のできない高品質な製品と、それを認めて製造者の決めた価格でも喜んで買ってくれる顧客がいれば、大手にも太刀打ちできるのです。
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それでは、高い技術力があればよい製品ができるわけですから、後は黙っていてもファンが自然とつくのでしょうか。残念ながらそうは簡単にはいかないようです。弊社のある大田区は日本有数の町工場の集積地であり、中には米国のロケットや戦闘機に使われる部品を製造しているような会社もあります。こうした高い技術力を持っているにもかかわらず、区内の多くの町工場ではこの世界同時不況で受注が激減し、大変な苦労をしています。
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たとえ世界有数の技術を持っていても、それを生かして付加価値の高い最終製品として販売する力がなければ企業として繁栄することは難しいのです。部品をどのように加工すれば品質を上げられるかという戦術的なことに加えて、どうすればそれを高く売ることができるかという販売戦略が必要なのです。痛くない注射針などで有名な岡野工業所の岡野社長は、大企業の部長クラスの人たちとの付き合いから得られる情報がとても大切だと言っています。昔から3つの経営資源として「人」、「モノ」、「金」と言われますが、最近はこれらに加えて「情報」も挙げられるようになっています。情報ならば、中小企業でも工夫すれば手に入れられます。
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さて、俗に「器用貧乏、隣の阿呆に使われる」という言葉があります。職人とか技術屋は人に喜ばれるのが好きですから、なんだか褒められるとうれしくなって、商売抜きで自分の技を提供してしまいがちです。しかし、相手は腹の中で「こいつはちょっとおだてりゃ何でもタダでやってくれる、便利なやっちゃ」とほくそ笑んでいるかもしれません。普段、便利なやつと重宝がられていても、いざこのように不況になるとあっさり切り捨てられるのが今の時代です。実際に大手の下請けの工場経営者が、仕事がなくなり首をくくるという事態が現実になっております。
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韓国の家電メーカーSAMSUNGの尹社長は、自社の製品が世界トップシェアを取れた理由は、「差別化」と「スピード」だと言っています。以前日本は、SAMSUNGはじめ韓国の企業には大した技術はないと見くびっておりました。他国に比べて日本の企業は素晴らしい技術を持っている、というのが日本の誇りでもあったのです。技術という点では日本の企業に太刀打ちできなかったはずなのに、「差別化」と「スピード」という経営戦略を持ち、技術がなければよそから買ってくれば良いという極めてビジネス志向なかじ取りが、SAMSUNGの成功の要因でしょう。
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インターネットベンチャー企業が、自社の運営するポータルサイトに数10万人のユーザを獲得したとき、それは大きな「力」となります。たとえ社員が10人ほどしかいないとしても、これだけのユーザを抱えていれば、大企業も一目置くわけです。このベンチャーが何らかの提案を持ってきたときには、対等な立場でその提案を聞いてくれます。それは相手を社員10人の会社としてではなく、その裏にいる数10万人のユーザを見ているからです。だから、従業員10名ほどの会社が一部上場の大会社と対等に付き合えるのです。
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中小企業にとっての「力」とは、自社の製品を喜んで買ってくれる顧客を多く作ることです。自社のサービスを喜んで利用してくれるユーザをたくさん抱えることです。そして、そうした製品なりサービスをいかに早く提供するかという「スピード」も大きな「力」なのです。
3回にわたった「企業の力とは」完