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さて、自分が子供のころを振り返ると、自分の小遣いをどう使うか考えるようになったのはやはり小学校3年くらいからだろうか。毎月いくらという決まった額の小遣いをもらい、10円が10枚で100円、100円が10枚で千円というとても高い金額になるんだ、ということが理解できたころだったように思う。

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私の子供のころの金銭感覚は、近所の駄菓子屋やお祭りに出店してくるテキ屋のおっさんたちに鍛えられた。通っていた小学校の隣が池上本門寺という大きなお寺で、年に一度のお祭りには日本中の出店が集まったかと思うくらい盛大なものだった。また、そうしたお祭りではないときでも日曜日には山門の中に数件、常連の出店が出ていた。

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一番手前がウナギ釣り、その次が品の良い老夫婦がやっていた実演販売のべっ甲飴売り、その隣がうんと優しいじっちゃんのおもちゃ屋、一番向こうがベニヤ板の台の上で砂糖菓子を型抜きしてうまくできると賞金がもらえるという店、何屋というのかな。

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お金がなくても、そこら辺をのぞき見しているだけで楽しかった。べっ甲飴を銅の鉄板の上に絵を描くように見事に形にしていく手際の良さ。普段は相撲の軍配のような形の小物を作っているが、ときどき孔雀などの大物を作る。でもそれはごくたまにしかやらないので、いつ作るのだろうかと焦れながら見守った。

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おもちゃ売りのおじさんは子供好きで、いつも歌を歌っていた。それが「♪見せてやりたい鉄の兜の弾の跡ー」という、軍歌だかなんだか、戦争で歌ったような歌なのがおもしろい。何かを買うといつもおまけしてくれた。

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こう書くと、何だかいい人たちばかりのように聞こえるかもしれないが、そんなに甘くない。一番手前のウナギ釣りのおっさんは、いかにもその筋という感じでちょっと怖かった。何かの時に調子に乗って「おっさん、針が落ちているよ」などと言ったら、最初は無視され、二度目にまた言ったら「うるせえっ!」と怒鳴られた。

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このウナギ釣り、子供相手にあこぎな商売をしていた。ゼムクリップを立体的にしたような針に、いかにも切れやすそうな糸をつけた竿で釣るのだが、ウナギのような大きな獲物を釣るには無理がある。それでも、たまに名人級の腕を持った子がチャレンジして釣れそうになることがある。すると、今まさに引き上げようとしたその瞬間、このおっさんが「ほらっまた釣れた!!」と突然大きな声を出し、同時に手を叩いて脅かすのである。びっくりして手元が狂って獲物をばらすのを期待しているのだろうが、子供相手にこんななことをするのである。

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また、奥の砂糖菓子の型抜きも油断できない。うまく型が抜けたかどうかの判定が厳しかったりする。型は色々な種類があり、難しいものだと500円、簡単な形だと50円とかにわかれている。私も簡単なひょうたん型だったかにトライして一度だけうまくできたようなことがあった。そーっと壊さないようにおじさんのところへ持っていくと、「これは濡らしてあるからダメだ」と却下された。手が汗ばんで湿ってしまったのだが、そんなのは仕様がないことだと思うが許してくれない。こうした商売は言葉通りの「子供だまし」であるが、そういう中で自分のお金と時間を何に投資すべきか、ということを子供なりに判断しながら遊ぶのである。

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しかし、もっと強烈な経験をしたこともある。先に話した本門寺の年に1回のお祭りである「お会式」の時のこと。私は小学4年くらいだったと思う。その日は3日間のお祭りの最終日で、いかに盛大なお祭りもさすがに人も少なくなり出店もほとんどが片づけて消えていた。そんな中、本門寺の境内ではまだまばらに出店が残っていた。

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すると、たこ焼き屋のあんちゃんが声をかけてきた。「もう店を閉める、最後だからうんとサービスするので一皿買ってくれ」というのである。そのように好意を前面に出されると断れないのが今でも変わらない私の性格である。「いつもより多く入れてやるからな」と言うと確かに1.5倍くらいの量を皿に盛ってくれた。なんだか得した気分になってそれを持って徒歩5分ほどにある自分の家に帰った。

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母親に得意そうにその話をして、たこ焼きを食べ始めたらなんだかおかしい。肝心のタコが入っていない、それどころか中身は空洞なのである。やな予感はしたが、「まあ、たまにはそういうのもあるさ」と思い直して、次のに手をつけるとそれも空っぽ。母親はあきれて、「ばかだねお前は、だまされたんだよ、気持ち悪いから捨てなさい」と言った。私は悔しいやら情けないやら、そうかと言ってあの店に戻って文句を言う勇気もないし、どうせ今頃はいなくなっているだろうしと、泣き寝入りするしかなかった。

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これなど、子供だましを超えて詐欺である。後味の悪いいやな思い出ではあるが、とても教訓になっているのも確かである。こうして子供もたくましくなっていくのである。

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