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突然「ピチャピチャ」と水の音がした。走行中の電車の中なので雨にしては音が大きすぎる。6歳の娘と山手線に乗っていた朝のことである。その音の方向を見ると、風体の良くない中年男が、なんと平気で立ち小便をしている。それも扉に向かってではなく堂々と通路側に向けて存分に放出しているのである。

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車内は立っている乗客もかなりいてそこそこ混み合っていたが、あっという間にがらんとした空間が生まれた。電車通学の小学校低学年と思われる児童達もあっけにとられた顔をして、何が起きているか理解できない様子。そんな子供たちや若い女性をはじめ、他の乗客たちもサッとその場から逃げていく。

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男は、これまたずいぶんと長い間放出を続け、あきれるほどたっぷり出し終わった後、何事もなかったかのように次の駅で降りた。大きく広がった水たまりから、電車の揺れに合わせて幾筋もの細い川が伸びてきて、そのうちの1本が座っている私たちの方にも近づいてきた。仕方ないので、本に夢中で何も気づいていない娘の手を引っ張って、隣の車両へ避難した。

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私が幼少期の頃から町には浮浪者もいたし、物乞いもいた。格差社会といわれるが昔からそのような格差は存在していた。しかしここ数年、どうもその質が変わってきたように感じる。つまり、「危ない人」が増えたのではないか、これは私が人の親となりそうしたことに敏感になったことによるものかも知れないが、貧困層の増加、不法入国も含んだ外国人労働者の流入などが関係しているように思えてならない。

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蒲田はマンガ喫茶のメッカといわれるだけあって、そこに寝泊まりして生活するいわゆるネットカフェ難民と思しき若者を目にすることも多い。先日も蒲田ではないが近隣にあるサイゼリアで家族そろって食事をしていたら、隣にキャリーバッグを傍らに置いた青年が一人で食事していた。そして食事が終るとそのまま腕組みをして眠り始めた。その疲れた様子を見て、なぜこのような健康そうで若い人が仕事に恵まれないのだろうと不思議に思ったものである。

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こんな事件があり、先日お会いしたエン・ジャパン(以下、エン社)の越智会長のことを思い出した。母校である大学院で行ったセミナーにゲスト講師としてお越しいただき、その後の飲み会までお付き合いいただいた。

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越智会長のお話の骨子としては、エン社が転職サイトを事業としている根本として、就職に失敗した人たちに転職のチャンスを与えることにより、フリーターのような不安定な立場の人たちを救済したいという理念があるということであった。この理念を会長は「社会正義性」と呼んでいた。

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一般に企業理念によく登場する3点セットは、顧客のため、社会のため、働く従業員のため、である。顧客満足度を上げ、環境などに配慮して社会に役立ち、従業員の幸福を実現するというのが普遍的な会社の在り方なのである。その中で、越智会長は2番目の「社会のため」を「社会性」としてとらえ、エン社を含めリクルートやマイナビなどの競合他社はいずれもこの「社会性」を持っていると言っていた。いずれの会社も職を求めている人たちに就職の機会を与えるという点で社会の役に立っているということである。

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しかし、越智会長が強く押し出しているのは、エン社は単なる「社会性」ではなく、「社会正義性」にこだわっているという点である。それを表すのが、「フリーターを減らし、求職者には一つの会社に長く勤めてもらい、皆に幸せな会社生活を送ってもらいたい」という越智会長の考えである。しかし、このことが実現されるとエン社のビジネスは成り立たなくなる。その点を指摘しても、越智会長のこの考えは変わらないとのことだった。

フリーターが増えるとなぜ良くないのかを越智会長は次のように語った。
・不安定な雇用と低い報酬により、低所得者層が増え生活に困る人が増える
・低所得者層が増えると犯罪率がUPする
・こうした人たちには結婚の機会が減少し、少子化が進む

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越智会長のこれまでの経歴も伺ったので、おおむね考えていることは理解できた。既存の大手求人企業に対する強烈な反抗心のようなものが行動の動機づけになっているようだ。私も常々感じていることだが、大手求人会社が自社のビジネスのために転職を奨励したり、フリーターがカッコいいというイメージを植え付けたりすることは、日本の将来のためには決してプラスにはならない。これは私だけではなく、人材を確保することに日々大変な苦労をしている中小企業の経営者ならば、だれでも感じているのではないだろうか。

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求人会社はどこも同じ(穴のムジナ)だろうと思っていた私にとって、氏の考えを聞く機会を得たことは大変有意義なことだった。できれば将来も大企業病にかかることなくその考えを貫いてもらいたいものである。

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私が20代のころ、たまたまリクルート社の広告代理店関連の仲間が数多くいた。今から25年ほど前のことである。そうしたことから一度だけ当時のリクルート社の文化祭に誘ってもらったことがある。その時の印象としては、皆若くて活気があり、正社員も代理店も差別がなく、まるで学生のノリで会社をやっているというもので、さえない派遣社員だった当時の私からは大変にうらやましく見えたものである。しかしそれから時が経ち、代理店の経営をしていた友人からも「最近は直営店との競争がきつい」と聞かされ、随分様子が違ってきたのだなと感じていた。そういった経過を知っていたこともあり、越智会長の話は大変身近に感じられたのである。

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さて、翻って自社の方に目を向けてみると、それほど明確ではないけれども自分なりに損得抜きでやってきていることがある。それは、(1)新卒採用・正社員主義、(2)再委託排除、(3)ノー残業、といったものである。これまで自分の会社が、「社会に役立つこと」が大切だとHPにも謳ってきたが、なるほど、越智会長の言う「社会正義性」とは良い言葉を聞いた。そこで、クオーレの社会正義性は何かということをまとめてこの項の終わりとする。

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クオーレの「社会正義性」

・新卒採用・正社員主義
若い人を育て、一人前の技術者に育てる。それも、一流の学歴を持ち、パーソナリティ的に非の打ちどころのないような人材ではなく、自分のように学歴もなく、人生の目標も持たず、これといった強みも持たずに社会に出ようとする普通の若者
たち。そうした大企業が採用したがらず、切り捨ててしまうような人たちを育てていくのは中小企業の社会的役割であると信じる。また、いつでも契約解除できる契約社員やアルバイトといった形ではなく、正社員として雇用することにより、会社の覚悟というものも明確になる。こうした草の根的な人材育成が日本の国力を維持する源泉なのだ。

・再委託排除
健全なIT業界の発展のためには、案件をあっせんするだけの手数料ビジネスに堕してしまってはいけない。すべてを自分たちの力で行い、すべての責任を自分たちが負うことにより技術も身につく。よって安易な再委託はしない。自分たちでできない仕事なら最初から手をつけない方が、市場に迷惑をかけないで済む。最近見かける事例だが、ちょっとWebデザインをやっていたような広告会社が安易にシステム案件を引き受ける。それも滅茶苦茶な安値で強引に仕事を引っ張る。しかし結局は火を噴いてクライアントにも関連会社にも迷惑をかけ、最後は他社に協力してくれと泣きついてくるというものがある。市場を荒らさないでくれと言いたい。

・ノー残業
誰にでも平等に与えられた時間という資源。それを有効に使うことはその人のみならず家族にとっても重要なことである。また、きちんと計画を立て、オンとオフつまりメリハリのある生活をすることは、仕事と私生活の相互に良好な作用を及ぼす。私が勤めていた頃、仕事以外にも趣味やボランティア活動などに時間を使いたかったが、そうした考え方が当時の職場においてはなかなか理解されなかった。そうした経験から、3K(きつい、苦しい、帰れない)といわれるIT業界において、ゆとりのある職場を実現することが可能であることを実証することは私個人にとっての挑戦でもある。

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