【2010年1月25日の朝礼でのスピーチより】

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さて、私は今だに掃除嫌いですが、しかし身の回りを整理するのは好きです。というより、好き嫌いではなく必要だからやる、つまり習慣になっております。カ
ミさんからは、あなたは几帳面だとか真面目だとか言われますが、私にとって掃除や整理とは、必要な時にそれがすぐに見つかるように準備しておくことにほか
なりません。

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だから、いらないものを捨てることも大切です。なぜなら、いらないものを捨てると検索スピードが上がるからです。パソコンのハードディスクにも不要なファ
イルがたくさん放置されていると見た目にもどこに何があるか分からなくなりますし、システム的にも検索が遅くなりバックアップにも時間がかかるようになり
ます。いつも身軽にしておくことが軽快に仕事をする(軽快に生きる)コツだと思います。

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先の話に出てきた寺、律院の小僧部屋には誰が買ってきたのかジョージ秋山の「浮浪雲(はぐれぐも)」という漫画が置いてあり、私たち小僧は寝る前のつかの
間の暇を見つけては読んだものです。その中に、坂本竜馬が出てきてこう言います。「家具は家を縛り、家は人を縛る」と。30年以上も前に読んだ本ですが、
いまだによく覚えている言葉です。実際に家も持たず物も持たずに生きていくのは無理ですが、あまりモノを持ちすぎると余計な負担や束縛を背負いこみ、いざ
という時に軽快に動くことができなくなるという、とても考えさせる言葉です。

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掃除とは、身の回りや物を清潔に保つのみではなく、それにより自分の心も常に風通し良くしておくという行為なのかもしれません。山林も手入れしなければい
くら木が茂っていても貧弱な木が増えるばかりです。きちんと手入れして適当に間引き、枝打ちをして、日当たりや風通しが良くなって初めて立派な木が育ちま
す。

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ベテランの刑事は、車を見てその持ち主が覚せい剤常習者であることを見抜くそうです。覚せい剤にやられて心が病むと、車の中を整理しようとか、洗車しよう
とか、傷ついた車を修理しようとする意欲がなくなってしまうのです。だから、車の中がごみ屋敷のように汚れているのは、そうした兆候を現すそうです。

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街に落書きが増えると治安が悪くなり、それを放置すまいと立ち上がった住民たちによりそれらの落書きが消されていくと治安が良くなるという話があります。
街が落書きで汚れていると、人の心に荒れた性情を呼び起こすのかもしれません。騒音も同じことです。いつもけたたましい騒音に包まれていると落書き同様人
の心を荒れさせます。だから年中テレビをつけっぱなしにしておくのは、特に子供にとってはとてもよくないことだと思っています。

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仏教の修行者が座禅を組んで瞑想したり毎日お経を読んだり掃除するのは、自分の心の中の雑草を除去するために必要なことなのかもしれません。お釈迦さまで
さえ、悟りを開いた後も四六時中瞑想していたそうです。一度悟ったからといって、その後なにもせずにいては、悟りの状態を保てないのではないでしょうか。

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人間は忘れる生き物です。忘れるというのは悪いことではありません。嫌なことがあってそれを毎日毎日思い出しては怒ったり悔んだり悲しんだりしているので
は体がもちません。ある程度忘れるからこそ生きていけるのです。今日嫌なことがあっても、夜には忘れて熟睡し、明日にはすっかり新たな気分で積極的に生き
ていくことができればそれに越したことはありません。

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しかし、大事なことも忘れてしまうのが悩ましいところです。感動を与える本を読んだり、偉い人の話を聞いて、なるほど、これからはこれを自分の生きる指標としようなどと思っても、数か月もすればその感動も薄れ、元に戻ってしまうのです。

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トルストイの「青年時代」の中で、落第して絶望の淵に沈んだ主人公が、かつて自分が道徳的に生きるために人生の目標と信条とを書き留めた「生活の信条」と
いうノートによって救われるという場面があります。過去の自分によって現在の自分が救われるのです。一度はある極みに達していながら、時の経過とともに
すっかりその高邁な気持ちを忘れ凡庸な日々を無為に過ごしてしまうという話です。

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人間は忘れる生き物です。自然は放っておくと無秩序な状態に戻ろうとします。そのために、日々の掃除や習慣が大切になってきます。だからお坊さんは毎朝お
経をあげるし、他の宗教でもミサや御祈りが厳格に執り行われているのです。身の回りやパソコンのファイルを常日頃から掃除したり整理したりするのと同じよ
うに、自分の心も定期的に掃除してやることが大切です。

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