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20年近く前、ある電力会社の系統制御システムを開発した時の話。系統制御というのは発電機や遮断機(スイッチのこと、といっても、物置小屋ぐらいの大きさ)を制御する根幹を担うシステムである。開発には5、6社がかかわっていて私の立場は三次請けだった。よその会社は進捗がずるずる遅れたり、色々なトラブルを起こしたりしている中、私だけは何とか工程をキープしようと色々な努力をした。

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まだパソコンにUNIXが入るのが珍しかった頃にPC-UNIXを導入し、階層構造のシステム設計を施し、系統図のシンボルマークはCADシステムを使って自分でデザインした。そうしたことでわが社は、工程を守るだけではなく、元請け会社から依頼され自分たちの開発したソースコードを他社の手本として提示するまでになった。

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そうこうして1年がかりで開発は何とか無事完了した。関係者も“お疲れさんムード”で、近いうちに元請け会社が音頭を取って慰労会をやるらしいという話を聞いた。しかし、その日が近づいてきても一向にお声がかからない。「まあ、いいや」と思って放っておいたら、慰労会の開かれている時間に元請けの担当者から1本の電話がかかってきた。「今日お見えになると思っていたら欠席されていたので、せめて電話で一言お礼を」と大変丁寧なごあいさつをいただいた。私は心から感激した。

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その担当者に、「色々苦労して引っ張ってくれた阿部さんに本当は一番この場にいてもらわなければならないのに、何かの手違いで連絡がいかずに申し訳ありませんでした」と詫びられた。何のことはない、本当なら私に声をかけるべき二次請けの会社(商流でうちの一個上)が、困っていた時は何かと頼ってきたのに“のど元過ぎれば”で私のことは無視して自分たちだけ慰労会に出席していたのだ。下請けなどこんなもんだという悲哀と、元請けさんの担当者のように、ちゃんと評価して感謝してくれているという、その2つのコントラストがはっきりと出た例である。

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一概には言えないが、自分の経験から、元請けはきちんとしているのに、その下に入っている二次請け会社のモラルや技術力が低くて苦労する、煮え湯を飲まされる、ということはよくある。建設業界などでも似ているのではないだろうか。

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また別の事例。ある大規模な開発案件で、複数の下請け会社が集められた。その中に、どうにもさえない会社があった。進捗は最初っから遅れているし、その会社のエンジニアはどうにも怪しい人ばかりだった。だから元請けさんにも目をつけられ、会議のたびにきつく尻を叩かれていた。

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そのような状態で開発が進み、なんとかシステムテストに入ったが、その会社の担当分の工程はべた遅れ。どうするのかと思っていたら、それまで見たこともない人がその会社の助っ人として現れた。いわゆる火消しである。システムテストの間中、その会社の人たちは毎日徹夜のような状態が続いた。しかし我々は工程通り進めていたので深夜まで付き合う必要はなかった。可哀そうなのは元請け会社、下請けに勝手に徹夜作業させるわけにはいかないので、付き合わなければならないのだ。

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ある日の朝、いつものように現場に着くと、その助っ人が首からストップウォッチを下げて生き生きと動きまわっていた。おそらく徹夜明けなのだろうが、特有のハイ状態を保っている。ストップウォッチは、性能検査のために必要なので首から下げているのだろうが、どうにもわざとらしく感じてしまった。しかし、毎日徹夜で付き合わされた元請けさんとはなんだか妙な連帯感が生まれているようである。どちらかと言えば、徹夜せずに帰ってしまっている我々の方が、分が悪いような雰囲気さえする。

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徹夜で工程をリカバリしなければならなくなった原因は自分たちであるにもかかわらず、修羅場で頑張っている姿を見せつけたことにより、元請けさんの憶えがめでたくなってしまったのだ。こうした例はよくある。前もってきちんとスケジュール管理してリスクを洗い出し事前に問題を解決し、気の利いた提案やツールを創り出して効率よく仕事をこなし工程通りに仕事を進めるという理想のやり方をしている会社よりも、先の例のような体育会系のノリで一緒に汗をかくことで何とか勘弁してもらう会社の方が評価を得てしまうとしたら、これはどう考えてもおかしい。おかしいけれども人間の情の問題で、自分が苦労している時に傍らにいてくれると、それがいくら能力の低い者でもありがたいと感じてしまうのである。

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会社の経営でも同様。普段は何もせず、たまに何かやるとミスばかりで皆の足を引っ張る常務が、なんだか社長の憶えだけはめでたくて、いざ飲み会になると本領発揮したりする。そんな構図である。皆がきちんと定時で帰れるように仕事を差配している課長に対して、「あいつは毎日さっさと帰ってけしからん、愛社精神が足りない」などと社長に告げ口する。社長がそんな口車に乗ってしまうようなら、その会社は優秀な人から辞めてしまうだろう。

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