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30年以上前の話であるが、実家のある大田区池上に名歯科医がいた。この先生、斎藤先生といい、今は故人となってしまったが当時中学生だった私はこの先生に随分とお世話になった。

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仕事が非常に丁寧で確実、おかげでその当時治療した奥歯のブリッジは30年以上たった今でもびくともしない。よく銀をかぶせると数年後に隣の歯が虫食ってしまうということがあるが、そのようなことは全くない。保険治療にもかかわらずこのような頑丈なブリッジを残してくれたことに感謝している。私の母もこの先生にお世話になり、やはり30年たってもその歯は今でもなんともないそうである。この先生の腕前は人間国宝級と言ってよいのではなかろうか。

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しかし、なぜかこの先生、近所ではあまりよく言わない人もいる。実は結構怖い先生なのである。私も中学生の頃、歯にかぶせモノをする予定の日をすっぽかして数日後に診療に訪れたら、こっぴどく叱られた。先生曰く「一日でも遅れると歯の状態が変わっちゃうんだよ!」。職人なのである。両親と学校の先生以外の大人でこれほど真剣に怒られるのはこの先生くらいだ。子供が騒いでも本気で怒るし、治療にはかなりの日数をかけるので患者にも忍耐が必要となる。

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そうしたわけで、人によってはこの先生を敬遠するが、保険治療で30年以上も持たせてくれるということを考えると、とても貴重な歯医者さんであった。

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この先生のように、良い仕事をしても30年たってから評価されるというのは少しさびしい気がする。もちろん、当時から腕は良いと評判だったが、必ずしもその腕前に見合うだけの人気があったかは疑問である。職人気質のあまり少し偏屈だったり、怖かったりすると、患者からは少しマイナス評価となってしまう。その仕事の素晴らしさが本当に評価される30年後には本人はすでに亡くなってしまっているのである。

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話を自分たちの仕事に置き換えてみる。

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たとえば、1999年にうちで開発して業界2位のコンビニ会社に収めたシステム。1万件におよぶ店舗の契約書を電子化してWebで管理するものだった。これは色々な要求があり、それまでに似たような前例のないシステムだったので設計段階から苦労した。しかし、99年に運用を開始してからは一度もシステムトラブルを起こすことなく稼働し続けた。2年ほど前にリプレースするまでのおよそ8年間、その間には次々と新しい店舗の情報も追加されたが、私が将来の増加分も見積もって設計したデータベースは、その後なんのメンテナンスも必要なかった。

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2006年に納品した高速道路ポータルサイトも、設計からカットオーバーまで半年足らずで開発したにもかかわらず、初期不良もなくその後は安定して稼働し今では月間一億PVを超えるまでになった。この業界の人間ならば「へーそれはすごいですね」と評価してくれるが、一般の人は動いて当たり前と思っているだろう。

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こうした堅牢なシステムは現場の人からは感謝されるが、儲けにはつながらない。システムによっては2、3年で陳腐化してリプレースになる方がベンダーにとってはありがたいという面があるのも事実である。ある電機メーカーが昔、洗濯機を丈夫に作りすぎたがために買い替え需要が進まず、経営上の問題となった。そこで洗濯槽をこれまでよりも若干薄めに設計したところ、うまい具合に壊れるようになり経営が持ち直したという話がある。

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この「うまい具合に壊れる」という加減が微妙である。買ってから1年以内に壊れると、元々の品質に問題があるということになるし、保証期間を過ぎた1年半くらいに壊れると、わざと保証期間が過ぎた頃に壊れるように作っているのではと疑われる。テレビや白物家電であれば、まあ5年から10年くらいで壊れると消費者は納得するようである。5年も使ったのだからそろそろ新しいのに買い替えようという心理になる。(実際には5年は少し短いかも、7年くらいなら納得かな?)

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長く使用に耐える良いモノを作って、それが正当に評価される。というのは意外に難しい。静かにしていると誰からも顧みられず、年中うるさく騒いでいると構ってくれる。それが実際の世の中である。日本という国と、金さん一家が取り仕切っている独裁国家を比較しても同じである。

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サイレントマジョリティとノイジーマイノリティと言われるように、真面目に黙って納税する多くのサラリーマンと、こっちに助成金を出せとかあっちに特例を設けろとかいって騒ぐ少数の人間が集まった圧力団体。政治家はどちらの言うことを聞くかというと、うるさく騒ぐ方にどうしても対応せざるを得ない。

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