【2011年8月29日の朝礼でのスピーチより】

(前回の続き)

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ある日のライブが終わり、その日私は10枚程度売ったこともあり1万円程度のチャージバックがバンドに支払われました。楽屋から出て真っ暗な街の路上で皆が顔を突き合わせ、それをどのように分けようかという話になり、メンバーの一人が「みんなに公平に分けようか」と言いました。そうすれば一人当たり2千円ずつ仲良く分配となります。

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しかし私は気色ばんで言いました。「悪いけど1枚も売っていない奴もいるのに何で公平に分けるという話になるんだ? 言いたくはないけれど俺はチケット10枚売るのに毎月郵便はがきを100枚から150枚出している。ということははがき代だけでも4,000円から6,000円は自分で負担しているんだぜ、その分の費用を考えてくれよ。」 私の剣幕に押されたのか、結局一人一人の売り上げ枚数に合わせて分配しました。もちろん、1枚も売らなかったメンバーには戻しはありません。

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このことは至極当然と当時の私は思っていましたが、今の自分にはこれが正しいやりかただったのかどうか疑問を持っています。組織として考えたときに果たしてチケット売り上げだけがバンドへの貢献だったのかどうか。1枚も売らないメンバーでも、彼がいないと演奏はできません。私がチケットを売ったお客の中には、実は彼のファンがいたかもしれません。

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ならば顧客リストをバンド全体で管理してはがき代などはバンドで予算を出し合って賄うのが合理的ですが、それぞれ仕事を抱えている社会人バンドですから、そのような共同作業をやっている暇はありません。要は皆でコストを平等に負担しあい、利益は平等に分けるなどというのは机上の空論でしかないのです。

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仮に売り上げ枚数を無視して平等に分配したらどうなるでしょう。私は、毎月せっせとお金と時間を費やしてはがきを送る作業が馬鹿馬鹿しくなり、その様な努力をするモチベーションを失ってしまうでしょう。1枚も売れなかったメンバーですが、彼は大体いつもほとんどチケットをさばけませんでした。売ろうと努力して売れなかったのか、ハナから売る気がなかったのかといえば、私は後者だと思っています。

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しかし、チケットを売らなくたってノルマに足りない分の支払いは彼がするので問題はありません。音楽的なスキルで比較したら私なんかより彼のほうがよっぽど上ですから、バンドに対する音楽的・芸術的貢献度は彼のほうが高いわけです。

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これが会社だったらどうなのかと考えてしまいます。成績の悪かった営業マンに、「お前は売り上げ0だったから今月の給料は無しだ」と言ってしまうのが組織としてよいのかどうか。因果応報で仕方ないといえるかもしれませんが、そのような評価をとる会社に対して、他の社員は、「明日は我が身」かと思って戦々恐々となるでしょう。

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そのような人情味のかけらもない会社には長くいられないと、転職を考えるかもしれません。一方、いつまでたっても成果を出さない社員に対して、「いいよいいよ、今回は運が悪かったな」と甘やかしていたらどうなるか。人によっては、目先の利益しか考えていない人がいることも事実ですから、「この会社は仕事しなくたって給料をくれるんだ、自分が結果を出さなくてもだれかが稼いでくれるんだし、きっと会社は儲かっているんだから自分の給料くらい大したことないんだろう」と考えて全く努力しないかもしれません。

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本人だけならまだしも、そのような社員がいる会社では、他の社員も「あんなやつでも給料もらっているんだから俺一人が苦労することはないや」と投げやりになることは容易に想像できます。これがモラルハザードです。そのあたりを考慮して甘すぎず厳しすぎずにコントロールしていくのは難しいことです。

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逆に、結果を出している社員には高い報酬という形で報いることが必要です。ドラッカーは、「花形社員の給料がマネージャーよりも高いことは何もおかしいことではない」といっています。経験年数や学歴、年齢に関係なく、成果に応じた結果を得られることは大切です。たとえ他の人々から見て、「あいつはいつ仕事をやっているんだ?」と思うくらい、他者から見てその努力の跡が認められないとしてもです。

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戦後の平等教育を受けたわれわれ世代からすると。みんなで頑張って、みんなで成果を上げて、みんなでその利益を平等に分配するというのがお手本のように考えられがちです。いまだに甲子園での高校野球がもてはやされるのも、そうした価値観を強く持っている日本人の心の琴線に触れるからでしょう。しかし、現実はそのような甘いものではないのはプロスポーツの世界を見れば明らかです。

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稼ぐ人と稼がない人がいるのは事実です。しかし、稼ぐ人ばかりを集めても会社は成り立ちません。経営活動の底辺を支える地道な作業を行う人も必要です。チームとして出した成果をそのメンバーに分配するということはなかなか難しいものなのです。

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