これまでも折に触れて「コミュニケーション」の大切さについて話してきましたが、今日は少し違う角度から、なぜ私たちの意思疎通はすれ違うのか、という話をします。
ソフトウェア開発において、納期・要件・品質を守るために円滑なコミュニケーションが不可欠なのは言うまでもありません。
私たちは、自分の頭にあるイメージを相手に伝える際、一旦「言語」というプロトコルに変換し、相手はそれを受信して再構成します。これは、オブジェクトを転送するためにJSON形式でシリアライズするプロセスと全く同じです。
しかし、この「シリアライズ」と「デシリアライズ」が、コンピューターのように正確にいかないのが人間です。言葉の選び方、口調、表情ひとつで、意図は容易に歪みます。その結果、現場では致命的な伝達ミスが起き、時にはストレスや怒りさえ生んでしまいます。かつて羽田で起きた航空機事故も、管制官とパイロットのコミュニケーションミスが引き金でした。
先日、『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか』という本を読みました。そこで紹介されていた「伝わらない理由」が、まさに私たちの現場にも当てはまると感じたのです。
「スキーマ(知識の型)」のズレ:専門家と初心者では持っている知識の型が違うため、同じ言葉を聞いても解釈が異なります。
「知識の呪縛」:自分が知っていることは、他人も当然知っているはずだという無意識の思い込み。
「わかった」の嘘:断片的な情報から勝手にストーリーを補完して「わかった」気になってしまう。AIのハルシネーションにも似た現象です。
実は、この「スキーマのズレ」を私自身、家庭で痛感しています(笑)。
私のスキーマでは「言語には主語・目的語を伴う文法が必要」なのですが、妻は「思いついた順に話すのが会話」というスキーマ。娘からは「よくそんなに噛み合わないのに夫婦を続けてるね」と呆れられる始末です。
ある日、居合の稽古に出ようとする私に、妻がこう言いました。
「忘れ物ない?棒は持った?」
一瞬、杖か、あるいは鉄人28号のリモコンか何かが浮かびましたが、正解は「日本刀」でした。刀を「棒」と呼ぶ彼女のスキーマに、最初は絶望に近い衝撃を受けましたが、同時に気づいたのです。「同じ日本人だから伝わるはずだ」という私自身の『知識の呪縛』こそが、自分を苦しめていたのだと。
さて、開発現場に話を戻します。
本の中では、解決策として「メタ認知」が挙げられていました。自分を客観的に俯瞰することです。
バグ調査で手こずっているとき、後から振り返れば「なんて見当違いな推測をしていたんだ」と気づくことがありますよね。あれがメタ認知です。
「なぜ何度言っても伝わらないんだ!」と相手を責めたくなったとき、一呼吸置いて自分を俯瞰してみてください。「自分と相手では、今、スキーマがズレているのではないか?」と。
この客観的な視点を持つだけで、不要なストレスは減り、より建設的な議論ができるはずです。
この本は書棚に置いておきますので、興味があればぜひ手に取ってみてください。今月も、互いのスキーマを尊重しながら良いプロダクトを作っていきましょう。
この本は書棚においておくので興味があれば読んでみてください。