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会社を創業してまもなくの頃、私は日常の細かいことでもいちいち社員に注意を与えていました。それは決して好んでしていたわけではありません。少ない人数で立ち上げたばかりの会社、それを自分たちの理想の組織にしようという思いを持っていたので、ちょっとしたことでも自分の考え方を伝えなければならないと信じていたからです。
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ある時、トイレに入るとトイレットペーパーが残りひと巻き分しかないことがたびたびあったので、そのことも言うまいかどうか逡巡した後、細かい話だということは重々承知の上で、他人に対する気づかいの大切さを伝えねばならぬと思い、嫌々ながら注意しました。小うるさい社長だと思われたかもしれませんが、こちらは好き好んでいっているわけではないのです。
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皆さんの周りにも細かいことを注意する人がいるかもしれませんが、その人の真意を理解してあげてほしいものです。その人は目についた些事をどうこう言っているのではなく、蟻の一穴を見過ごしてはならないという意味で警告しているのかもしれないのです。
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さて、私はエンジニアを目指した10代のころから、いわゆるサラリーマンにはなりたくないと思っていました。だから20歳でソフト会社に入社した時には、自分はサラリーマンではなくエンジニアだと思っていました。しかし、あとで社長から、「お前はサラリーマンなのだからその長い髪を切れ」と言われ、ものすごく落胆したことを覚えています。その社長に対する反抗心から、わざと髪を切らないどころかネクタイをせずジーパンで職場に行くようになりました。
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私はその会社を含め、2つの会社に勤めた経験がありましたが、いずれの会社でも遅刻に対しては懲罰的な就業規則により月給が減っていく仕組みとなっていました。確か遅刻3回で有給が1日消費され、精勤手当が減らされるとか、0.5時間単位で時給相当額を控除されるなどの仕組みであったと思います。
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だから、5分や10分遅れただけで給与を減らされるということに対して、大変に理不尽であると感じてもいました。エンジニアならば、その仕事の内容で評価されるべきと単純に考えていたのです。今思えば単なるわがままかもしれませんが、若いうちはそんなものです。
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さて、自分で会社経営を始めた当初、ある社員がいました。彼は事務仕事が好きで、若いわりに保守的なタイプで、常に何事かに対して不平不満を言うのが常でした。元々ソフト開発とは全く畑違いの別の会社に勤めていたのですが、そこの会社に対しても何か気に食わないことがあったらしく、人の紹介で私の会社に移ってくることになったのです。私と同級だったので、その頃30歳ちょっと手前という年齢でした。
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彼は入社して間もなく、何度か遅刻をするようになりました。そこで、私としては年も違わない彼には小言は言いたくないけれども、役割として放ってはおけないと思いました。私も会社に務めていた時はよく遅刻したので、そのこと自体を責めるつもりは毛頭ありませんでした。
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だから彼さんに対して、自分の真意が伝わるよう気を使いながら、叱責ではなく同じ仲間としてのお願いという形で話をしようと思いました。私は彼に、「自分がそのようなことを注意する資格はないし、君の給与を減額しようなどとも思っていないが」と前置きした上で、「数人しかいない会社なのだから、朝の9時に人がいないと取引先から電話が来たときに困る。誰も電話に出ないと相手から見た会社の印象が悪くなるので皆のため、そして自分自身のためにも考慮してほしい」などという趣旨の話をしたと記憶しています。
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しかし、彼さんから返ってきた言葉は私にとっては意外なものでした。いかにも鬱陶しいといった顔つきで、「遅刻してごちゃごちゃ言われるよりも、時間計算で給与を減額してくれた方がすっきりします。」とこう言ったのであります。
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なるほど、そういうものかと変に感心したり落胆したり。それ以来、こういった人種、つまりナチュラルボーン サラリーマン(生粋のサラリーマン)に対しては、その人の人生に踏み込んでまで、どうこうしようという意欲を失ってしまいました。このような経験を重ねていくことにより、経営者の(ある種勝手な)熱い思いはどんどんとスポイルされていくのではないでしょうか。そして、「社員はあくまで使用人だから、いかに低く給与を抑えるかが社長の仕事だ」などと考えるようになってしまうのではないでしょうか。私はそうはならないと信じていますが、使われる方も使う方もそれぞれの考えがあり、中には決して交わることのないものもあるのかもしれません。