我々の仕事は、どこかに善良なる庇護者がいてそれが自動的に仕事を回してくれるというようなものでは決してない。1つの仕事を取るためには目に見えない様々な苦労があるのである。千三つという言葉があるが、まさに千の苦労をしても報われるのはそのうちの三つだけというこの言葉通りのものがある。

5年ほど前、あるベンチャー企業の技術営業の手伝いをしたことがあった。P社はあるソリューションを武器に上場を計画しており、人、モノ、金という経営資源を投入して目標達成に邁進していた。そのような時、エンドユーザと技術グループとのブリッジをする人が欲しいということで、人の紹介でお手伝いすることになった。
もちろん自分の会社を持っているので、週に2、3日という前提でその会社に詰めることになった。

P社に行ってみると、私の席は7,8人のグループを見渡すような配置で用意されており(課長の机のようなレイアウト)、自由に使えるノートPCもその上に乗っていたので、ずいぶん期待されているのだなと思った。社内はベンチャー企業特有の雰囲気というのか、社員は寄せ集めで責任分担も明確ではなく、年中人が入れ替わっているようだったが勢いだけはあった。

社内ではさほどすることもなかったのだが、営業と一緒に大手家電メーカーなど数社へのプレゼンテーションや打合せに参加するようになった。私は毎日出社することはできなかったので、自分の予定は予めメールなどでマネージャに伝えるようにしていた。しかし、この会社は常にその場その場で物事が決まっていき、よく言えば臨機応変、悪く言えば行き当たりバッタリで営業活動を行っていたので、なかなかマネージャと私のスケジュール調整がうまく行かなかった。

出社してみてもいるはずのマネージャが外出しており、一日何をしてよいのか分からないことなどがあった。相手のマネージャも必要なときに私がいなくて困ったりしていたのであろう。手伝い始めて1ヶ月もしないうちに雲行きが怪しくなってきた。

P社は技術者が足りないとのことだったので、私の役割としてはまずP社で営業支援的なことを手助けしつつ、私を紹介した会社と連携してスキルの合う技術者を順次投入していくというもので、斬り込み隊長的なものである。そして切り出した仕事を自分の会社に持ってくるというのが本来の目的だったのである。ところが後から来るはずの技術者の応援がいくら催促してもさっぱり来ない。

昔「コンバット」というテレビ映画があり、そこでは主人公のサンダース軍曹が敵陣に突入するときに味方が必ず援護射撃をしてくれるというシーンがよくあった。これは戦場では当たり前のチームプレイであるが、私の場合は一人で敵陣に攻め入ったものの、援護射撃がまったくこずに孤立してしまったという図であった。

そのようなある日、出社してみると私の机の上の書類とPCが別の机の上に移動されていた。移動先の机は長机で、明らかに一時的な作業スペースであった。マネージャはいないし、周りの人間に聞いても要領を得ないので、また元の机に荷物を戻して作業をしてその日はそのまま帰った。そして次に出社したときにはまた荷物が移動されていたが、そのときは席をそちらに移動しろという伝言つきであった。なんだか陰湿ないじめに会っているようなとても嫌な気分になりつつ、その日は長机で仕事をした。

このような扱いをするところには長居は無用とばかり、紹介会社の責任者を交えて話し合って早々に契約を打ち切った。今でも思い出すと腹が立つ出来事である。ちなみにP社の上場計画は失敗してP社自体も今はもうない。

これに比べると、某製薬会社でのDBバージョンアップのプロジェクトリーダを請け負ったのは大変に有意義であった。P社のときと同じように週に何日か製薬会社の本社に通ってプロジェクトの旗振りをさせてもらったが、先方のCIOはじめ皆さん私にはきちんとした配慮をしてくださった。やはり礼を持って遇するということは大切なことであると思う。

仕事を持ってくるということはとても難しいことで、特にわが社の様に持ち帰り案件をものにするのは大変な苦労が伴う。会社を始めた最初のうちは自分に営業の能力が欠けているのだろうと思っていたが、何年もやっているうちにそれは誰がやっても同じであろうということがわかってきた。大会社の元営業マンとも一緒に営業したこともあるが、それほどうまく行かないし、むしろそれが普通なのである。

営業と技術の間には深い谷があるといわれるが、私はその両方を知っている。むちゃくちゃな条件の案件をとってくる営業の話もよく聞くが、技術の側も仕事を取ってきた人の苦労を慮って欲しいものである。私はよくライオンの親子のたとえ話をする。母ライオンが命懸けで獲物をしとめて子供に与えているのに、子ライオンの方はやれ骨だらけで食えないだの、今は満腹だから食えないだのと我儘を言うのと似ているのである。動物の世界でも、自分で獲物をとってくるようになって初めて一人前なのである。そうでないなら、せめて感謝の気持ちと敬意を表すべきであろう。

「営業活動」への2件のフィードバック

  1. ご無沙汰しております。
    阿部様のこのブログを楽しみにしている者の一人で、以前にご挨拶させていただいた者です。
    このエントリには、私も考えさせられるものが御座いました。わたしのような若僧が言うのもナンですが、持ち帰りと言うのは難しいですよね。
    また機会が御座いましたら、情報交換のほど、よろしくお願いいたします。

  2. ume様、ご無沙汰しています。
    いつもご覧いただいているようでありがとうございます。
    仕事を持って帰れないと新人を育てることが困難ですが、他社はどうしているのでしょうね。
    中小企業が安心して人を育てられる環境を作らなければ、将来の人材不足は加速度的に進むと思います。国の施策として考えてほしいものです。

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