*** リセット ***
長い間パソコンの画面に向かっていたり、本を読んでいたりすると目が近いものにピントを合わせようとして近視になるそうです。それはある意味、生物の進化といえるもので、遠くを見る必要がなければ近いものが見やすくなるように体が順応するそうです。私は手遅れですが、そうでない人は時々遠くを見るようにすると近視防止によいそうです。

同様のことが思考にも言えます。もしかすると、研究者のように一つの物事を深く探求してばかりいると、考え方が固定化してしまうのかもしれません。だから、気分転換として全く違うことを趣味とするのは、視野狭窄の防止に役立つのかもしれません。どこかの国の公務員のように、毎日同じ環境で同じ仕事ばかりしていると、国民のためという本来のテーマを忘れ、省益優先があたりまえ、いかにして自分たちの仕事を守るかということだけに意識が集中し、社会のため国民のためというところまで考えが及ばなくなるのかもしれません。「発想の転換」とか「自由な発想」というのは様々なしがらみを振り棄ててゼロから考え直すことによって生まれるものです。

人によっては、複数の仕事を抱えもつ方が効率よく仕事ができるということがあるようです。そのような人は、Aの仕事で少し行き詰まったら今度はBの仕事に打ち込み、ほとぼりが冷めたころにまたAの仕事に戻ると、先ほどの行き詰まりが簡単に乗り越えられるというものです。他の仕事をしている間に、潜在意識が勝手に別の仕事をしてくれているという表現をする人もいます。また、欧米ではヨガや禅に興味を持つ経営者がいるようですが、彼らも精神的にリラックスして、ゼロベースで考える素地を作りたいと欲しているのかもしれません。

エグゼクティブは会社にいるときはゴルフの話ばかりしていて、ゴルフ場では仕事の話ばかりしているというジョークがあります。このエグゼクティブは案外仕事ができる人なのかもしれません。

以下は以前ベストセラーとなった「ビジネスマンの父より息子への30通の手紙」からの1節です。

私たちのもっとも実りの多い経営会議のいくつかはカヌーの中で開かれた。思いがけずうれしかったのは、君が大自然が好きだったことで、私は君とその楽しみを大いに分かち合った。私にとって、雑念でいっぱいになった頭を整理するのに、森の静けさほどありがたいものはなかった。

いつだったか、私はこのような旅行中に、私流の問題解決の方法を君に話したことがある。なかなか決心がつかなくて、行き詰まったら、関連のある事実をすべて揃えて、その問題を君の心に預け、しばらく寝かせるといい。カヌーを漕いだり、釣りをしたり、獲物をおったりしているうちに、時間がたてば無意識のうちに考えが整理され、まとまってくる。それはまるで、個人用の目に見えないコンピュータを持っていて、さしあたり何かをしている間に、君の思い通りに作業するよう、プログラムできるようなものである。これは必ずうまくいった。釣りや狩りの旅が終わりに近づくころには、問題の解決策なり、行動方針なりが決まっている。それはしばしば直観的な解決で、そのためには、静かな自然の執務室ほど役に立つものはない。私には、自然はこの世の中で最高の経営顧問だと思っている。

― キングスレイ・ウォード 城山三郎訳 新潮社 ―

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