【2011年6月20日の朝礼でのスピーチより】
□□□□
ところで、このような新しいデバイスやネットワークサービスは本当にここ最近になって急に表れてきたものなのでしょうか。「新しいサービス(デバイス)だから皆が使い始めたのではないか」と思う人もいるかもしれませんが、実はこうしたものはすでにかなり以前から世の中に存在していたのです。いくつか事例を挙げていきましょう。
【MP3プレーヤー】
□□□■
今や大人も子供も愛用しているMP3プレーヤー、私の娘も7歳の時にiPod Shuffleを買い与えました。現状ではAppleのiPod系かSONYのNet Walkmanに2分されている感がありますが、やはりこれだけ世の中に広まったのは何と言ってもiPodのセンセーショナルなデビューがあったからでしょう。カセットテープのウォークマンが世の中に出た時も、それによって音楽を外で歩きながら聞くというそれまでになかったライフスタイルを提案し、それが受け入れられて音楽業界でのイノベーションとなりました。
□□■□
Appleは、音楽や動画をネットからダウンロードして視聴するというさらに進んだイノベーションを打ち立てましたが、MP3プレーヤーそのものは別段目新しいものではありませんでした。私はiPodがデビューする何年も前からMP3プレーヤーで英会話を聞いていたりしました。フラッシュメモリに音をコピーしてメカニカルな再生機構を一切持たない超小型のデバイスで音声コンテンツを聴けるというのは、かつてカセットテープで音楽を聴いていた世代の私にはとても革新的でした。しかしその当時は一定のユーザには受け入れられていましたが、一般にはそれほど普及してはいなかったように思います。こんな便利なものがどうしてもっと流行らないのかと思っていたものでした。
□□■■
そうこうしているうちにご存じのとおりiPodが登場して一気に市場を開拓していきましたが、技術的にはこれといった目新しいものはありませんでした。特にウォークマンを生んだ国である日本人から見ると、製造はどこかのOEMで音質は大したことなく、そっけないほどシンプルなデザインには「こんなものがオーディオ機器かい?」とさげすみの目で見る人も多かったと思います。しかし、iTunesというネットを活用したスタイルで一気にブレークしました。売れる商品というのは技術や品質だけではないということがよくわかる事例です。
【電子書籍】
□■□□
iPhone/iPad、Android端末などの普及に伴って電子書籍ががぜん注目されてきました。すでに多くの書籍が電子化されてダウンロード購入できるようになっています。それと歩調を合わせるかのようにクラウド環境が整い、これまでは購入したコンテンツを自分のPCに置いていたユーザが、いつでもどこからでもアクセスできてバックアップの必要もないクラウドの仮想本棚をほとんど無料で利用できるようになってきつつあります。どこかの出版社が電子書籍元年というのもよくわかります。
□■□■
ところで、電子書籍は、iPadやAndroidがあって初めて閲覧可能となったのでしょうか。いいえ、実はこれもすでにかなり以前から世の中には存在していました。うちの会社で初めてMacを買ったのは1993年ころですからもう18年も前になります。大枚120万円出して買ったQuadraには、おまけで見慣れないフロッピーディスクが付いていました。Voyager(ボイジャー)社のエキスパンドブックという、今でいう電子書籍です。これは商業的にはヒットしませんでしたが、すでに20年近く前からそうした製品が世に出ていたのです。
□■■□
その後も、おそらく何度も電子書籍というチャレンジはあったと思います。一番盛り上がったのはInternetが普及していったころ、ネットで見られる新聞や雑誌というコンセプトだと思いますが、これはPCがなければ見られないということでそれほど成功はしませんでした。しかし近年になり半導体チップや液晶パネルといったハードウェアや高速無線通信技術が追い付いてきて、ようやく本格的に電子書籍が普及してきそうです。