世の中には内向的な人と外向的な人の2種類あるようです。世界共通の感覚として外向的な人の方がポジティブな評価を得るような傾向が見られます。
先日『「静かな人」の戦略書』という本を読みました。著者のジル・チャンという女性は台湾出身でアメリカのメジャーリーグのマーケティング部門などで活躍し、今は台湾を拠点に内向型人間向けのキャリア支援などを国際的に展開している人です。
この本では人のタイプを内向的・外向的ではなく内向型・外向型と言い方を変えて、「静かな人」つまり内向型人間の優れた点や弱点をカバーする秘訣などを具体的に述べています。
私も相当に内向型人間なので、この本を読んでいると「ああ、これ自分のことだな」と感じることが多々ありました。相手の反応を気にしすぎてうまく話が出来なかったり、大勢の人が集まる場が苦手だったりするのはこの本で挙げられている内向型の特徴です。
私も改めて思い返すと内向型を隠して無理に外向的にふるまおうとしてずいぶん苦しい思いをしました。20代から30代にかけて10年間ロックバンドでボーカルを担当した私ですが、実は小学生のころは音楽の授業などで人前で歌わされたり楽器を演奏させられたりすることに死ぬほどの恐怖を感じていましたし、楽器屋の前を通ることさえ避けていました。もし店員に呼び止められて楽器を弾くことや歌うことを強要されたらどうしようかと、今思うとばかばかしいような妄想にかられていたからです。そんな私がバンドを始めたのは、自分自身のこのような弱点を克服したいというのが動機の一つでした。
私は今でも基本的に内向型なので、スターバックスやサブウェイといった店で注文するのが苦手です。後ろに人が並んでいる状況でいくつもあるメニューのオプションを選ぶくらいならハムサンドと紅茶で十分だと思ってしまいます。
もしあなたが自分は内向型だと思っていて、それについて何かしらの引け目を感じているならこの本はお勧めです。一つの事例としてアメリカのプロバスケットボールチームの話が紹介されています。あるチームがいわゆる「オレ様」的なスタープレイヤー(つまり外向型の人間)を何人も集めて戦力の増強を図ったが結果は思わしくなくシーズンを終わってしまったこと。その後、派手ではないが堅実なプレーをする選手(つまり内向型の人間)を入れたところチームの戦力が大きく上がったということです。サッカーで言うとマラドーナのようなオレ様的なプレイヤーがいても、それを支えるチームメイトがいなければゲームはできません。影となってアシストする選手がいて初めてチームとしての戦闘力が上がるということです。直近の例では三苫選手が良い例ですね。欧米では自己アピールの強烈な利己的なプレイヤーが多い中、彼は「利他的」な素晴らしいプレイヤーであると評価されています。
さて、ここで大切なことですが内向型は消極的、外向型は積極的という見方をしては大きな誤りです。内向型・外向型は人が外の世界と関わるときの心の態度を表しているだけであり、積極的か消極的かとは関係ありません。
私の敬愛する中村天風師は積極的というものには2通りあるといっております。その2通りとは相対積極と絶対積極であります。相対積極というのは、競争相手や達成すべき目標に対して「なにくそ、やってやるぞ」とか「負けるもんか」といって自分を鼓舞して対処することです。それに対して絶対積極とは「事ある時も事なき時も、事なき時のように落ち着いた心で全てに応接する」ことだそうです。茶の湯の達人のように、心に動揺を起こさせることなく落ち着いて諸事に接することです。
江戸初期の剣豪宮本武蔵が晩年、身を寄せていた大名の藩主にある時こう聞かれました。「貴殿はこれまで幾度となく試合を行い一度も遅れを取ったことが無いといわれているが、いつもどのような心持ちで試合に臨んでおられるのか?」すると武蔵は、「上様におかれては、三度三度の食事の際に箸を持たれるとき、どのような心持におなりですか?」と。
藩主は変なことを聞かれてけげんそうに「いや、特にこれといった特別な気持ちにはなり申さぬ」と答えたところ、武蔵は「私が試合に臨む心持ちもそれと同じでござる」と返しました。つまり、命がけの試合であろうと、何気なく食事をするときであろうと、同じようになにごともない落ち着いた心で淡々となすべきことをしているだけ、ということです。
私は合気道と居合道を少しかじっておりますが、よく注意されるのは「力が入りすぎている、力を抜きなさい」ということです。これがしかし難しいのです。自分では力を抜いているつもりでも「力を抜こうとするために力を入れている」というおかしな状態に陥ります。高段者の師範の動きを見ていると、まるで日本舞踊を踊っているかのようにするすると技をかけています。「ああ、こうあるべきだな」といつも感心してみております。
常に心を積極的に保つことはとても重要なことです。しかしそれは性格が内向型であるか外向型であるかとは無関係です。周りに良い影響を与える「静かな人」とは、絶対的な積極性を内に秘めた人のことであると思います。