最近の日本の状況から、「将来こんなことになるのでは」という危機感を感じています
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21xx年、ここは英国の大英博物館。大学で国家論を教えるN教授は自分のゼミの学生を引率して過去に滅亡した国々の、それらがかつて花開かせた文明の片鱗をうかがわせる遺物が紹介されている「失われた文明国」という常設展示を見て回っている。
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マヤ・アステカおよびインカ文明のコーナーでは、彼らの持つ建築技術に学生一同は驚異の目を見張った。まだ数学も発達していない時代に、これほど堅牢な建築物を作る技術はどこから来て、そしてどこへ継承されたのか、謎なのである。例えば古代ギリシャ文明はビザンチン帝国が正当な継承者として知られ、地中海諸国に大きな影響を残したのに、南米に起こったこの文明にはその継承者がいないのである。剃刀の刃が入る隙間もないほど精密に組み合わされた石組みを現実に目の前にし、それが今の技術をもってしても再現できないと聞いて素直に畏敬の念を感じた。
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次のコーナーには鎧兜が威厳をもって飾られており、その横に世界最初のテープレコーダーとウォークマンが展示されている。ウォークマンという名前は歴史の教科書に載っており、試験に必ず出る単語なので学生たちは皆知っている。「ああ、これがそうなのか、ずいぶんちゃちだな」そんな声が聞こえる。
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ここには、かつて栄えた日本という国の技術力の高さを示す遺物が所狭しと並んでいる。学生たちが日々使っているモバイル端末も、通信を支える光通信技術も、品質の高い製品を量産するノウハウも、それらのほとんどは極東の小さな島国「Nippon」が発祥の地だと聞かされて学生たちはなんだかとんでもないほら話を聞かされているようで、ほとんど現実感がなかった。インカの石組みであれば、太古に思いを馳せやすいが、自分たちが普段利用しているあらゆる製品が極東の小さな国、それも自分たちとは違う有色人種の考え出したものであるということに納得がいかないのである。
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学生の一人が質問した。「プロフェッサー、どうしてこんなに高い技術を持った国が世界を制覇することもなく、隣国のちょっとした軍事介入で簡単に征服されてしまったんでしょうか? まるで脅かすと急死するねずみのように」
「うむ、これまで見てきた国とはちょっと異質な感じがするのは確かだが・・」とN教授は豊かに蓄えたひげをしごきながら咳払いを一つしてさらに言葉をつないだ。
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「ローマはパンとサーカスにより民衆が国政に興味を持たなくなり滅んだ、日本の場合、物は違うが一説にはアニメとパチンコにより民衆が幼児化してしまい国政どころではなくなったと伝えられている。いずれにしろ、国が、その国を支える国民が気概というものを失うと、その国の滅亡は近いと言えるんじゃないかな?それに対してわが大英帝国は・・・」
展示室の薄暗がりの中にその鎧兜はじっと佇んでいた。兜の下には鈍く黒光りする恐ろしい形相をした面がかぶせられており、大きく穿たれた双眸は不気味に虚空を見つめていた。

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