【2012年2月6日の朝礼でのスピーチより】
あなたが忙しいビジネスマンだったとします。お昼にわずかな空き時間を見つけて昼食をとりたいと思います。そのようなときに、懐石料理屋に入る人はいません。やはり牛丼屋です。
例えば、早く昼食をかっ込んで次の営業先に回らなければいけないのに、あなたが入ったお店の主人がこう言ったとします。「ようこそおいで下さいました。当店は山海の珍味を吟味してお出ししています。まずはお客様の注文を聞いて下ごしらえから始めます。そしてお客様との何気ない会話からそのお客様の好み、出身地、体調を感じ取ります。さらにはその日の天気、温度、湿度を考慮して微妙な塩加減を・・・」そんな能書きをだらだら申し述べていると、あなたは「もういいっ」と言って店から出てしまうでしょうね。
私たちのお客様は、このビジネスマンのようなものです。Webシステムやそのデザインは、そのお客様の商品を売るために必要なツールであり、芸術作品でもなければ工芸品でもありません。高くて立派で品質の良いものを求めているのなら別ですが、多くのお客様は今すぐ安く手に入るそこそこ安定して動くシステムを欲しがっているものです。
我々のお客様は、ロケットを飛ばして何年もかけて宇宙から衛星のかけらを持ってこようというようなシステムを欲しがっているのではありません。もちろん、まれにそういうお客様もいるでしょうが、それは全体のほんのわずかです。
我々はお客様のパートナーです。お客様のビジネスがうまくいくために自分たちのシステムを提供するのであり、自己満足のためではありません。
A4一枚のパンフレットを作るのにお客様が想定している金額はせいぜい2、3万円というところです。そうなると、そのデザインは4時間くらいで仕上げてしまわなければ原価が売値をオーバーします。そうしたコスト意識を持ちつつも、お客様が満足する品質を保つということが求められます。もちろん、2、3万円というコストに見合った品質であるのは言うまでもありません。
以前にブログで秀吉の話を紹介しました。急ぎの手紙を祐筆(書記係)に書かせるため、文章を口頭で祐筆に伝えていますと、その祐筆が「しばしお待ちを」と秀吉の喋りを遮りました。「どうしたのか?」と聞くとその祐筆、「いや、醍醐という字をにわかに失念してしまいました、すぐに思い出しますのでしばしご猶予を」すると秀吉「そんなものは伝わればよいのだから『大五』と書いておけ」と言って、渋る祐筆に無理やり「醍醐」を「大五」と書かせました。
後日、その祐筆が妙にふさぎ込んでいるのを見た秀吉、「いかがいたした?」と問うと「私の書いた手紙の「大五」という誤記が後世に残ると思うと情けなくて死にたくなります」それを聞いた秀吉は「この戦乱の世でお前の書いた手紙などだれが憶えているものか。気に病むことなどない」と笑い飛ばしたそうです。
これは、生き馬の目を抜く戦国時代ではスピードが命で、伝えるべき内容さえ正しければ誤字脱字など構うことはないという意味です。まさに今の時代と同じですね。
これまでの話で、仕事をするうえで品質はそこそこで良いのだと短絡的に考えないでください。あくまでお客様のニーズと予算に柔軟に対応するという意味です。この点だけ付け加えておきます。