私が最初に勤めた会社、K社の社員旅行に行ったときの話です。
宴会の席で、普段顔を合わせることのない京都本社の社員から、この会社に入るときに入社試験があったという話を聞きました。私は寺の師匠にK社長を紹介されてすんなり入社し、試験のことはまったく知らなかったので少し驚きました。そしてそばにいたK社長に聞きました。
私:「この会社は入社試験があったんですか?」
K社長:「そうや、みんなちゃんと試験を受けてこの会社に入っとるんや、そやからお前は番外やっ!」
この言葉には腹が立ちました。試験があるなら受けさせてもらえればよかったし、この会社に入れてくださいと無理に頼んだわけでもなく、社長に誘われたから入ったのですから。仕事の面でも、会社でお荷物になっているわけでもないし、私よりも仕事ができない社員はたくさんいました。
そのときこう思いました、「ようし、それならばこの会社にとって必要欠くべからざる存在になってから、あっさりと辞めて困らせてやる」と。
京大出身のK社長は、自分が一番優秀で正しいんだという自信があるようでしたが、それが常に社員を見下している態度になって現れていましたし、私には社員をモノ扱いしているように感じられました。
この社長は学歴を重視するところがあり、大卒だからということで優遇することがありました。私よりも2年ほどあとに中途採用で大卒の人が入ってきました。私よりも年上でしたが、業務の経験はありませんでした。あるとき何かのきっかけでこの人に賞与の明細を見せてもらったのですが、その金額を見てびっくりしました。基本給も賞与の額も私よりも断然良かったのです。大変おとなしくて従順で、優しい人でしたが、正直言ってこの業界向きのセンスを持ち合わせている人ではありませんでした。
しかし社長はずいぶん期待していたらしく、あるシステムの設計をやらせていましたが、彼にはかなり重荷になっていました。結果としてこのシステムは私が全て面倒を見ることになり、設計も最初からやり直しました。さすがに社長も期待はずれだったことに気付き、その人に対する態度が手のひらを返したように冷たくなりました。
結局この会社は入社後3年ほどで辞めました。私が辞めたことでどの程度のダメージを会社に与えたのかは分かりませんが、私がいた東京事業所はその後まもなく解体となり、多くの社員は転職するか、派遣先の会社に引き取られるなどして、社長について本社に戻ったのは私が知る限り一人しかいませんでした。
今はちょうど、来年の新卒者向けのリクルート活動の時期で、先週も企業説明会に行って学生に色々と話をしてきました。そのような時、学生に必ず話すのは、わが社は学歴や年齢に関係なく、実力を評価するということです。もちろん入社時に高卒か大卒かで初任給は異なりますが、そのようなものは1、2年もすれば人事評価システムが働いて、意味がなくなります。実力主義というと厳しいように捉えられるかもしれませんが、だれでも正当に評価されるという点でフェアなやり方だと思っていますし、評価されれば人はプライドを持てるようになるものです。どうか日々研鑽して、技術者としてのプライドが持てるようになってもらいたいと願っています。