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昨日のNHK(2009年3月8日)で日本人宇宙飛行士の選考のドキュメンタリーをやっていた。最終面接は米国NASAで、現役の宇宙飛行士たちが面接官として待ち構えている。候補者たちのこれまでの体験を聞き出し、その潜在的な能力を見極めていくそうだ。このときの最初の質問が、「君はなぜここにいるんだい?」というものだった。
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この質問は、企業の採用面接でも、採用側が聞きたいことを象徴する質問である。本人がどのような経験をしどのように考え、その結果として今ここにきているというストーリーを聞きたいのだ。
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NASAの面接官がこのように語っていた。宇宙空間に出た時、パイロット同士は互いに命を預けることになる。その時に信頼できる相手かどうかを知りたい、宇宙飛行士になり仲間の命を預かるだけの覚悟があるかどうかを見極めるのだと。「あなたは誰なのか」ただそれだけを知りたいのです」と話した現役宇宙飛行士の面接官の言葉は大変印象的だった。
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企業の採用でも基本は同じである。いい加減な気持ちで入社して、平気で会社の信用を傷つけるようなことをされると皆が迷惑するし、会社の存続にも関わる問題となる。我々の仕事に対してさほどの熱意もないのに何となく入ってきて、いやいや仕事をし、会社や上司や顧客の悪口ばかり言うような人を仲間にしたくはないのはだれでも同じである。
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私はこの仕事に命を懸けている。後輩たちにも一人前になってほしいから一生懸命教育する。そのために仕事も任せ、その人間が失敗したら自分も一緒に泥をかぶる。下手をすると責任を取って腹を切らなければならないかもしれない。しかし、自分のために一緒に泥をかぶってくれるような上司の姿を見ることが、本人にとって一番の薬となるのだ。しかし、そのような姿を見ても何とも感じないような人間が社員だったら、こちらの命がいくつあっても足りない。つまり、会社のコンセプトとずれている社員がいると会社および経営者の命取りとなる。
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先日、労働基準局の企業向けセミナーに行ってきたが、内容のあちこちに違和感を禁じ得なかった。このセミナーは、はるか以前、高校生の時に受けた同和教育を思い起こさせた。全体として、「採用する企業側は応募者の人権を考慮して面接の際の質問の内容にも配慮しろ」という色合いの話だった。なんでも、家族のことに対する質問や、出身地などに関する質問はしてはいけないらしい。理由は、応募者の中には複雑な家庭環境を持っていたり、周りから差別を受けるような地域に住んでいる人もいるからだとか。
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我々中小企業の経営者の多くは、自分の仕事に誇りを持ち、若い世代に技術を教えて育てていこうという意欲を持っているはずである。さきの宇宙飛行士の面接と同様、我々が命を預け会社を預けることができるかどうかを見極めるのが面接である。家族のことや生まれた地域など、個人のバックボーンに最も密接に関係する話題を避けて、何がわかると言うのか。ふらりとやってきて自分の家族のことも、生まれ故郷のことも語らない幽霊のような人間を社員として雇えるわけがないのである。
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労働基準局の話を聞いていると、彼ら役人のフォーカスしている会社像というのが垣間見える。おそらく彼らが想定している会社とは、善良で無垢な労働者に、工場で単純労働をやらせて利益を搾取する悪徳な会社というイメージであろう。労働者は常に被害者で、会社は搾取する悪者という構図にとらわれた、左翼的発想が大いに感じられるのである。確かにそういった会社もたくさんあるかもしれないが、世の中そう単純な図式で成り立っているのではない。
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私が見るに、中小企業の経営者などというのは、特に日本の場合は、限りなくボランティアに近いものがある。会社の借金をひとりで個人保証をしているから、いざとなれば即個人破産である。無理して従業員に手厚くしても簡単に辞めていってしまう。それに反して、こちらの意思で辞めさせることは非常に困難である。採用でも同じ。いくつも内定をもらって得意になっている学生をマスコミは肯定的に取り上げるが、会社側が内定を取り消したりしたらえらいことになる。全く不公平である。
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大手企業ならば学歴も性格も優秀な学生を採用できるだろうが、中小企業は大企業が見向きもしないような、そうした枠からはみ出た学生たちを採用し、訓練し、教育して、一人前に食えるように育てているのである。労働基準法もそうだが、何もかも大企業を基準に制度が作られているように思えてならない。日本の企業の中で大企業の占める割合はほんの1割足らずで、残りは中小企業なのである。だから、中小企業こそが日本のバックボーンである。