*** テーマはなにか ***
ゼロベースで発想すること自体は大切ですが、前提としてまずテーマはなにかということを思い出さなければなりません。時としてこのテーマが置き去りにされるので大きな齟齬が生じます。ある企業では、コンパスと称して会社の理念を携帯に便利なカード型にして社員に持たせています。これは、会社の理念つまりテーマは何であるかということを常に社員に意識させ、自分の今とっている行動がそのテーマに沿っているのかどうかをチェックできるようにしているのです。つまりテーマは自分がどこへ向かえばよいかを示す羅針盤、コンパスなのです。こういうコンパスは、税金を使ってもいいから社会保険庁の役人に持たせたいものです。
仕事をしているときに、ときどきその仕事のテーマは何かを思い出す癖をつけましょう。そして、今自分がやっていることはそのテーマに近付いているのか遠回りしているのかに気づくことが肝心です。
*** 事例―テーマ最優先の秀吉 ***
秀吉が天下を取る前、祐筆に手紙を書かせているときの話。口頭で文書の内容を伝えているときに、祐筆がとまどったように少しお待ちくださいと秀吉の話を遮ったそうです。どうしたのかと尋ねると、祐筆は「恥ずかしながら今のところでだいご(醍醐)の文字を失念してしまいました。すぐに思い出しますからしばらくお時間をください」と言ったそうです。それに対して秀吉は、「そんな時間などあるか、構わぬから大五とでも書いておけ」とえらい剣幕で怒鳴りつけたので仕方なくその祐筆は「大五」と書くしかなかったそうです。
しばらくしてその祐筆がひどく落ち込んだ様子をしているのを見た秀吉が、どうかしたのかと尋ねると、あの手紙が後世に残って醍醐と書くべきところを大五などと書いたことがのちの人々に晒されるかと思うと情けなくて食事ものどを通りません。とその胸中を述べたのです。しかし秀吉はそんなことかと大笑いして、「今の戦乱の世の中で、たかがその程度の過ちをだれが気にも留めるものか」と笑い飛ばしたそうです。
*** 事例―女性の身支度 ***
よく若い女性がデートに遅れる理由として、着ていく服を選ぶのに時間がかかってしまうということを聞きます。ここでは待ち合わせた時間に彼氏と会うというテーマよりも、自分がどう見られるかということにテーマが移ってしまっているわけです。まあ、若いうちはそれでもかわいいねで済むかもしれませんが、年を取ってからもそれでは単にルーズな人と見られてしまうでしょう。
私が今も一緒に暮らしている、とてもよく知っている女性との思い出話です。二人で旅行に行こうとした日の朝、寝過したのであわてて支度をはじめて家を飛び出しました。私も前の晩から一緒にいたのでよく覚えています。すでに指定席を購入しているのでその電車を逃すことはできません。家から駅まであわてて走って行きました。私は二日酔い気味でつらかったことを覚えています。
しかし、駅までもう少しというところでなぜか彼女は近くのコンビニにお茶を買いに飛び込んでしまったのです。レジを待つ彼女はかなり焦っていましたが、それを見た私はもっと焦ってしまいました。何故今お茶なんだ? ようやく店から出た彼女と駅のホームへ走りこむと、その電車は間一髪でホームを走り出してしまった後でした。結局その日の旅行はおじゃんとなり、彼女はその日一日不機嫌でしたが、私には彼女の不思議な行動が理解できませんでした。おそらく彼女の頭の中には、お茶を買ってから電車に乗るという手順が強固に出来上がっていて、そのシーケンスどおりに行動してしまったのでしょう。
*** 事例―主婦の買物 ***
一般的に家庭の主婦はチラシを見て1円でも安い店で買いますね。商品Aはこちらの店で、商品Bはあちらの店で、という具合にいくつもの店をはしごしますが、男の場合は多少安く物を買うということよりも時間を大切に思う傾向があるようです。そんなに違わないんならここで買ってしまえというのが男の考え方でしょうか。
*** 事例―テーマのずれ ***
先日オークションにはまっている妻が言っていました。女性の買い手は1円でも安くしたいからなんたら便で送れとか面倒くさいことを言うが、男の買い手はたいがいYahooゆうパックで構わないと言ってくれるから楽なんだそうです。女性は1円でも安く買いたいというのがテーマで、男性は欲しいものを手に入れたいというのがテーマだからでしょう。
例えば、同じ車を所有するということをとっても、それが通勤手段として考えている人と、車をいじるのが好きだという人では自ずと違ってきます。車を通勤手段として使うのであれば、故障が少なくて燃費の良い車を求めますが、車いじりが好きな人にとっては故障しない車は魅力的ではないかもしれません。後者は、時々思いもよらない故障が発生して、それに対処することが楽しいという人です。犬好きと猫好きの違いのようなものです。
*** 言うは易く ***
ゼロベースについて長々と書きましたが、自分がそれを出来ているのかといわれると自信がありません。私もハマりやすく、視野狭窄に陥りがちなのでこの話は自戒の念をこめて書いています。
日本人の女性漫画家が外国人の旦那を面白おかしく描いて話題になっているマンガを読みました。その中に、仕事が忙しくて家の中を整理する時間がないと言っている旦那が、たまたま壊れたFAXを修理しようとして4時間もいじくっていたという話があります。普段はとても思慮深い彼ですが、やはりハマりやすい性格なのでしょう。西洋人だから論理思考であるとは言い切れないようです。