朝礼でのスピーチではありませんが、番外編として掲載します。
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家から少し離れたところにゴイシ君という同じ年の友達がいた。彼は一風変わった子供で、いつも大人をどこか小ばかにしていた。3月生まれの幼い私には、彼の態度はずいぶん大人びて見えたものである。
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確か小学校入学前の頃、ゴイシ君と私たち数人は近所の自動車修理工場の駐車場で遊んでいた。そのうちゴイシ君が車の上に登り始めた。そして「上がってこいよ」と誘われた。子どもながらに、自動車の上に乗って遊んでよいとは思っていないから、「そんなことしちゃいけないよ」と注意したが、彼曰く「こんなのどうせポンコツだからいいんだよ」。なーんだそうなのか、そういえば修理工場にあるくらいだからどうせ壊れているんだなどと妙に納得して一緒に車の屋根に上った。
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この当時、「ポンコツ」という言葉を初めて聞き、それを普通に口にする彼をすごく大人っぽいと感じた。そのうち興が乗ってくると皆で車の上で飛び跳ねたり、屋根からボンネットの上に飛び降りたりした。車にはシートがかけられてあったので滑ることもなかった。
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そうしてしばらく遊んでいると、向い側の工場のほうから誰か大人が「こらーっ」と叫んで走ってくる。「逃げろっ」とゴイシ君。「え?ポンコツだからいいんじゃなかったの?」と思いながらも、足の速かった私はゴイシ君と一緒に逃げおおせたが、逃げ遅れた仲間が捕まってしまっていた。もっともこの修理工場は私の家の2、3軒隣で、私などはそこの修理工のお兄さんとよく話をしたりしてすっかり顔は知られていたのである。
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家に帰ると、修理工場の人が来ていて親と何か話していた。まずいなと思ったが、私を見た親は、外で遊んでいるようにといい、しばらくして客が帰ってから家に入った。相当叱られるだろうと思っていた私だが、意外に親は叱ることもせず、ただ、なぜそんな事をしたのかと尋ねた。私は素直に、「友達のゴイシ君がポンコツだからいいんだ」と言ったからと話した。そのあとどうしたのかはよく分からないが、なにがしかの弁償はしたのだろう。すっかり件の悪友に乗せられたのであった。
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そのゴイシ君、小学校では同級生になった。1年1学期の国語の授業中の出来事を今でもよく覚えている。授業中にもかかわらず、彼は教科書を弄んで授業など聞いていない。そのうち教科書のページを一枚ずつ曲げて綴じ代のほうに差し込んでいった。それを繰り返すうち、教科書はアコーディオンのような形になっていった。それに気付いた先生に前に引っ張り出されて「なぜそんなことをしているのですか?」と咎められ、ゴイシ君の名言が飛び出した。
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「だって、くだらないんだもん」。
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先生もあきれて、それならアコーディオンを弾きなさいと命じ、ゴイシ君は皆の前で教科書のアコーディオンを弾く真似をさせられた。小学校1年にしてこの態度、生まれついてのパンクスである。いまどうしているのか気になるが、ただの大人になっているのだったら残念であるが。