モノには値段つまりPriceがある。人はモノを買うときに、その価格が自分にとって納得いく価格かどうかを判断して購入するかどうかを決定する。
このときの判断基準が消費者にとっての価値、つまりCustomer Valueである。
市場で鰯が100円で売っていたとして、その鰯を自分が手に入れるのに100円を払う価値があるかどうかで購入するかどうかを決める。我々のように都市に住んでいて、普段釣りをすることもなければ、その鰯を手に入れるには釣竿を手に入れて海まで出かけなければならない。そして1日費やしたとしても鰯を1匹吊り上げられるかどうかは保証の限りではない。そうすると、我々が自分自身で鰯を1匹手に入れるということは100円をはるかに超えるコストを必要とするので、100円の鰯を買う価値があるのである。
しかし、漁師にとっては普段から網にかかってくる鰯に対して100円の価値を見出さないであろう。ひとたび海に出れば鰯は一網に100や200匹はかかってくると考えると、そのCustomer Valueは1円にも満たないかもしれない。
ここで、PriceとCustomer ValueとCostの関係を絵にしてみる。
※ 東京工科大学客員教授 矢作恒雄先生の授業より
これはどのような商売でも普遍的な原則である。もちろんソフトウェア開発のビジネスでも同様で、その開発を自社で行うときのコストと専門の業者に発注したときのPriceとの差がユーザにとっての満足度の重要な要素となる。
ここで注意したいのは、顧客にいい顔ばかりして自分たちのコストがPriceをオーバーしてしまうことである。
Price – Costが自社の利益となるのであるから、Cost>Priceとなれば、顧客価値がいくら上がっても自分たちは食えなくなるのは自明の理である。
大切なのは、自分たちの利益をきちんと確保しつつ顧客価値を上げることである。
これは、自分たちが売りにしたいと思っていることと、顧客が価値を感じることが必ずしも一致しないということに注意すべきである。あるポータルサイトの構築を依頼されたとして、それをJ2EEでスクラッチで開発し、仕様書をUMLで必要のあるなしに関わらずドキュメント化し、EJBを駆使して高度な実装を行ったところでそれが価格に反映された場合は顧客が必ずしも喜ぶとは限らないのである。
もしかすると顧客はUMLで書かれた仕様書など求めていないかもしれないし、PHPでありものを組み合わせてそこそこ性能の出るアプリケーションを早く安く仕上げた方が喜ぶかもしれない。ここのところは、技術者が独りよがりになってはいけないところである。
これは、AppleのiPodとSONYのNet Walkmanとの勝負に象徴される。
iPodには、以下のようにオーディオ屋からみるとタブーと思われる点がいくつかあるらしい。
・高級オーディオの世界では安っぽいとして敬遠される白色を採用したこと
・ボリューム調整を他の操作と一緒にしてホイールでコントロールすること
(これは誤って大音量に設定してしまうような操作ミスを招くのでオーディオ屋はこのような設計はしないらしい)
・左右同じ長さのイヤホンケーブル
・壊れやすいHDDを持ち運びにすること
しかし、IPodはITMSというコンテンツサービスとクールなデザインを印象付けるCMで市場を席巻することになった。これは、顧客から見たバリューと、オーディオ屋から見たこうあるべきという、ある意味職人気質とが乖離した結果である。
システム開発といってもそのユーザのもくろみは多種多様である。そのユーザの目的を汲み取って、最適なソリューション(解)を見つけるのが我々の仕事なので、自己満足、独りよがりなシステム作りは厳にいましむべきことである。