【2010年8月30日の朝礼でのスピーチより】
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8月27、28、29と北海道は道東地方へ行ってきました。
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初日は父の故郷である陸別町へ墓参り、夜は知床のウトロ、翌日は川湯温泉で宿泊しました。北海道は父の出身地なのでこれまで何度も行きましたが、知床へ行ったのは初めてでした。知床という名前だけは有名な歌で知ってはいましたが、行ってみるとその自然の素晴らしさに感動しました。
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20人ほどが乗れる遊覧クルーザーで2時間ほどかけて半島の西側の海岸線沿いを回るツアーに参加しました。知床半島の先のほうの陸地は山と密林で一般人は入れないので、観光客は船で回るのです。半島は断崖絶壁で沢山の滝や川がオホーツク海に流れ込んでいます。
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そんな風景を楽しんでいると、ガイドが「クマを発見しましたのでこれから近づいてみます」とアナウンスします。この船はヒグマを見ることができるというのが売りらしいのですが、私は別に見たいとも思っていませんでした。森の中をのそのそ這い回っているクマを見ても、動物園でみるとの同じでどうということはないだろうと高をくくっていたのですが、この考えはいい意味で裏切られました。
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「ほら、海岸線のところを見てください、茶色いクマが海沿いに歩いています」ガイドの指示する方角に目をやると、しばらくしてその姿を認めることができました。私はクマといえば森の中をうろつくものという「森のくまさん」そのままのイメージしかもっていなかったので意外でしたが、そこにいたクマは石ころだらけの海岸を海沿いに歩いており、時折海の中に入って水浴びをしていました。(と、その時は思ったのでした)
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こう暑いとクマも水浴びをしたくなるのか、と感心していると、そのクマの後ろにちょこちょことついてくる2頭の小熊が見て取れました。このクマは2頭の子連れ母熊だったのです。海から上がった母熊はしばらく身震いをしたりしてうろうろしていたかと思うとまた波打ち際まで来て立ち止り、そうかと思うと突然水しぶきをあげて海にダイビングしました。と、次の瞬間、口にマスを咥えて海からあがってきました。そうです。このクマは水浴びをしたかったわけではなく、小熊たちのために魚を取ろうとしていたのでした。
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遠くてよく見えませんでしたが、母熊は2頭の小熊たちに魚を与えてやり、それを目ざとく見つけて寄ってきたカラスや鷹から小熊を守っているような様子でした。こんなシーンを間近に見て、二人の子持ちの私もなんだかこの母熊に妙な仲間意識を感じました。この後も、独り者の別の熊が川が海に流れ込む間際の場所でマスを仕留めていました。意に反して、熊に大満足のクルーズとなりました。
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船から上がり、宿泊先のウトロへ向かう途中でマスが遡上している川を見に行きました。そこには驚くほど多くのマスがまるで軍隊の行進のように隊列を組んできれいに静止していました。実際は川は勢いよく流れているわけで、上から見ると静止しているように見えるマスは流れに逆らって懸命に泳いでいるのです。こうして、産卵のタイミングを見計らっているのでしょうか。
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また、別の場所では落差3メートルほどの滝を懸命に超えようと飛び跳ねているマスたちを見ました。マスは5秒から10秒おきにあちこちから飛び跳ねてその滝に突っ込んでいきますが、激しい川の流れに押し戻されてただの一匹もこの滝を超えることはできません。どうもその様子が無駄な努力のように見えてきてかわいそうになり、事業仕分けの女性議員ではないけれども、「産卵するのにそんな川上まで行かなくても、そこじゃだめなんですか?」と言ってやりたくなりました。
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熊にしても、マスにしても、懸命に自分の子孫を残そうと厳しい大自然の中で戦っています。こうした姿をみると、子育てまっただ中の私も何か同じ動物の仲間として感じられ、野生の動物たちとの間になにがしかのつながりを感じることができました。
蛇足
これからは、イクラを食べるときにはサケの遡上に思いを致し、大自然に感謝していただくことにします。