【2010年8月16日の朝礼でのスピーチより】
□□□□
クラウドコンピューティングの台頭によりデータセンターの重要度がこれまで以上に高まっています。日本各地にデータセンターが置かれそれを国内ユーザが利
用しているとなんとなく考えているかもしれませんが、通信インフラを流れるデータトラフィックの4割ほどが海外のサーバからのデータであるという報告が示
す通り、実際はかなりのユーザが意識しているかどうかは別として海外のデータセンターを利用しているのです。
□□□■
なぜこれほど海外のサーバに依存する割合が高いかというと、その大きな要因としてコストの問題があります。データセンターと言えば地震や災害のリスクを減
らすためにそれなりの立地条件が求められますが、ただでさえ地価の高い日本でそのような土地を求めるのは諸外国と比べて大きなハンデとなります。
□□■□
また、データセンターではシステムに安定した電力を供給すると同時に、サーバをはじめとする様々な機器が発する熱を冷却するために膨大な電力を消費しま
す。しかし、電力の価格も他国に比べて場合により10倍もの価格差があるようです。これでは国内のデータセンターに国際競争力がともなうはずがありませ
ん。
□□■■
ところで、日本の企業が国際社会でグローバルな活躍をするうえで、様々な規制が障害となっているという話を良く耳にします。日本に生まれ育った我々にとっ
ては、規制と言われても元々その環境の中で暮らしているので、普段はなかなか意識することはありません。深海で暮らしている魚が水圧を感じないとの同じで
しょう。しかし、その実例を一つご紹介します
□■□□
以前、横浜市金沢にある地球シミュレータという施設を見学させてもらったことがあります。これは、例の事業仕訳でも話題になりましたが、処理速度世界一を
目指して特別に作られたスーパーコンピュータです。といっても、クレイリサーチ社のコンピュータのような筺体ではなく、ビルディングそのものがコンピュータシステムといえるような巨大なものです。地球シミュレータはかつて処理速度で世界一の座を誇っておりましたが、現在では後発の多くのシステムに追い抜か
れております。事業仕訳で脚光を浴びたのはこの地球シミュレータの次期システムです。
□■□■
地球シミュレータの中はそれこそ巨大なデータセンター施設で、案内された場所からは数百台のラックが置かれた広大なフロアを一望に見渡すことができました。そこから見るとコンピュータラックが独特な配置で置かれており、何か現代美術のような印象を受けました。
□■■□
案内してくれたのがNECの関係者であったせいか、特別に中のフロアにも入れてもらうことができました。そこで気づくのですが、床の下には床下というには
広すぎるもう一つ別のフロアがあり、そこには無数の配線が横たわっています。ケーブルが折り重なって何十センチもの高さにうずたかく積み重なっているので
す。これらの配線を変更するときはどうやって線を識別するのかと聞いたところ、張替が必要な時は新しいケーブルをその上からどんどん積み上げていくだけ
で、特に古いケーブルを撤去することはしないそうです。これだけ積み重なっていると、当然撤去のしようが無いのです。
□■■■
そのような配線専用のフロアですが、高さが1メートル半程度という中途半端な高さで、大人がその下で作業するためには常にかがんだ状態で行わなくてはなら
ない高さです。これにも何か意味があるのかと思って質問したところ、高さを大人が普通に立って作業ができる高さにしてしまうと、そこは建築上の1フロアと
して見なされるので、消火設備や空調設備を用意しなければならなくなり、コストやら何やらで大きな負担となってしまうので居住スペースとはみなされないよ
うに低い高さにしているということでした。
■□□□
つまりそこには消防法の壁がありやむなくそのような中途半端な高さにせざるを得なかったということです。元々消防法は普通のオフィスビルを前提に考えて作
られているので、こういったデータセンターのような特殊な建物には適応していないようです。こうしたことが効率のよいデータセンターの設計ができない要因
としてあるので、土地の問題、電力の問題のほかにも規制の問題というハンデが日本には存在するようです。
■□□■
欧米でうまくいったビジネスモデルを日本に持ってこようとしても、そのままでは日本の環境に適合しないし、適合させるにはコストがかかる。コストがかかる
とビジネスモデルが成立しない。ということで、日本でビジネスを行うのは大変であり、このような方の整備に時間がかかるようでは国際競争力をどんどんと
失っていくのは当然のことです。