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20代から30代にかけて、かなりロックミュージックにはまった。そのころすでに1980年代に突入していたが、当時はまだ70年代の香りを残したバンドが多く、これらの欧米で活躍しているミュージシャンに対しては強い憧れをいだいたものである。そしてパターン通りに自分でバンド活動も始めて、もっぱらStonesのコピーを演った。同様の経験のある人はわかるだろうが、自分でやってみるとますますメジャーなバンドと自分の決定的な差を知ることになり、夢と現実の違いに打ちのめされたものである。
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7~80年代、若者に人気のあったロックスターには共通点がある。みな若いということはもちろんだが、大人の社会を批判し、社会のルールに反抗し、自分のスタイルを貫くというものである。これらは興行のために多分に演出されているものもあるが、十代の少年達はこうしたロックスターの生きざまに憧れ、それを模倣するのである。
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そして、彼らの教祖であるロックスター自身も大人(中年?)になる前にその人生を終わらせてしまうものが少なくなかった。ブライアンジョーンズ、ジミヘン、ジムモリスン、ジャニスジョップリン、わりと最近ではカート・コバーン、この人たちはみな27歳で死去した。ロックはドラッグとセックスと死に結びついて、強固なメッセージ性を持ち、若者にとって大変に妖しく魅力的なものになっていくのである。
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さて、人には生まれて成長していく過程の中で反抗期というものを迎える。よく知られているように、2~3歳くらいで第1次反抗期、思春期を迎えるころに第2次反抗期がやってくる。第1次反抗期では、それまでひたすら従順だった赤ん坊が、ある日突然何でも「イヤ」といって拒否の態度を示すようになる。私もいま現在、上の子が6歳、下の子が4歳なのでつい最近、第1次反抗期の子を持つ親となる経験をした。実際に自分の子供を見ていて思うのは、何でも「イヤ」と言ってみて、どこまで自分の主張が通るのかを試しているように感じられた。つまり、限界がどこなのかを知るための大切な冒険の時期なのではないだろうか。
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そして第2次反抗期、これは本来動物が子別れ、親別れする時期なのではないだろうか。本当に大人になるための準備運動のようなものだろう。まだ私の子供はそうした年齢に達していないので、実感は持てないでいるが、自分のことを振り返ると、とにかく親が疎ましくてしようがない、しかし一人で生きていくことはできないというジレンマで苦しんだような気がする。そこで無頼なロックミュージシャンがこうした世代のハートをばっちりとつかむのである。私の場合はちょっと違っていて、中学生の頃はひたすら西部開拓時代のアメリカにあこがれた。親や日本人に生まれたというしがらみを断ち切って、大西部でワイルドな生き方をしたいと切に望んだものだ。私がロックに目覚めたのは20歳くらいになってからである。ティーンエイジャーたちが憧れる対象がロックミュージシャンであれ、ウェスタン映画の世界であれ、要は現在の自分の所帯じみた狭い世間から、はるか遠くかけ離れた刺激の多い冒険に満ちた生活に憧れるのではないだろうか。これは人間の本能、いや、動物の本能かもしれない。
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親の庇護を受けて育ってきた子ギツネが親と別れる時期が来て、危険の多い森の中へ一匹で巣立っていくには、その危険を危険としてではなく、冒険に満ちたあこがれの世界と映るように自然は仕組んでいるのではないだろうか。そうでなければわざわざ危険の中に身を置くことをせずに親と一緒に生活をするであろう。しかしそうなると親は次の子を産んで育てるという活動ができなくなる。キツネという種が生き残っていくためには、できるだけ短い期間で子離れして次の世代を産み育てなければならない。そう考えると、うまくできているものである。
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さて、人間に話をもどす。人の場合は動物と違って長く親と一緒に生活することができる。つまり、大いなる庇護のもとでぬくぬくといい年になっても生きていけるのである。しかし、動物の本能として仕組まれた親離れの時限爆弾はしっかりと抱えているから、時が来ればそれが反抗という形で爆発する。親に対する批判だったり学校など世の中に対する怒りとして発露されるのである。
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こうした一時期の生活態度は、人間が成長する過程で必ず必要なもので自然の与えたものだろうから、それを否定するつもりは全くない。私も子供達に、その時が来たらせいぜい反抗してみろと待ち構えていたりする。そのとき余裕をかましていられるかどうかは自信がないけれど。しかし、問題なのはそれがいつまで続くかである。人間の生活環境が良くなったせいで、30過ぎても40過ぎても親の世話になっている人が多くなっている。もちろん、年老いた親を面倒みるために同居している人を指しているのではない。いい歳をして親の世話になっているばかりではなく、反抗期もそのまま終わらせられずに持ち続けている人がいるのが困ったものだと思っているのである。そうした人の中には、何かにキレて火をつけたり車を暴走させたりして関係のない人の人生を台無しにしてしまうものもいる。