【2011年10月3日の朝礼でのスピーチより】
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今年の直木賞に輝いた「下町ロケット」、少し遅ればせながら読んでみました。大田区の町工場が独自の技術でロケットの主要部品を開発製造し、国家プロジェクトであるロケット打ち上げビジネスを担っている大企業と対等に渡り合い、部品供給するというものです。
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舞台は上池台の中小製造業会社なので、この地域の地元ネタがいろいろ出てきます。融資を巡って対立する取引銀行は池上にある東京三菱銀行池上支店のことのようです。東京三菱銀行は蒲田にもありますが、なぜか法人部門は賑やかな蒲田ではなく住宅街である池上にあります。私のいとこが副支店長をしていたこともあります。
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顧問弁護士は五反田に事務所があります。宴会場として登場する蒲田の中華料理店というのは、おそらく銀座アスターだろうな、とか、蒲田の焼肉屋の2階で飲み会というシーンがありますが、そこそこ広い店のようなので、おそらく弘樹あたりでは、とか、地元の人間ならではの読み進める楽しみがあります。おまけに、この小説はテレビドラマ化されましたが、帝国重工(三菱重工がモデル)の記者会見場は私の母校である東京工科大学の蒲田キャンパスが使われていました。何となく10年くらい前の時代が背景となっているようです。
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主人公の社長と私はほぼ同年代と思われます。なぜなら、少年時代にアメリカのアポロ計画を見て、宇宙に憧れ、ロケットに興味を持ったという設定だからです。私も眠い目をこすって夜中にテレビで月着陸のシーンを見ていた覚えがあります。今のようにIT系の仕事をするようになったのも、こうした世紀の科学技術ショーに影響を受けたからかもしれません。
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この物語は吹けば飛ぶような中小企業が独自の技術で生き延びていくという話ですが、その中には、下請けの悲哀、銀行の非情さ、大手企業の卑怯な手口、知財の重要性などがテーマとして語られます。夢を追いかける経営者とそれを支えてくれる従業員や弁護士、ベンチャーキャピタル、取引先にも理解者が現れるなど、主人公である社長の味方が何人も登場します。
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しかしその反面、当然ながら足を引っ張ろうという敵もたくさんいます。突然取引停止を言い渡してくる発注元企業、なかなか融資に応じてくれない銀行、訴訟を起こして潰しにかかってくる大手企業など。私も経営の端くれとして規模は違えども似たような経験をしているのでその辛さはとてもよくわかります。
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そうした中で、社内での対立というのが最も身につまされます。会社の収益を新技術の開発に投資する社長。それに対して、特許を使わせて利用料を受け取るという、リスクの少ない取引で収益を上げ、その分自分たちの給料を上げてくれと訴える社員。会社はだれのものかというテーマになるのですが、この物語ではその部分について最終的な回答は出せていないように思います。もっとも、こうした問題には正解はありません。
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本の内容をあまり話すと、これから読む人に迷惑でしょうからこの辺にしておきます。