【2010年8月9日の朝礼でのスピーチより】
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先週、母が腸の手術をしました。健診の際に腫瘍が見つかったのでそれを内視鏡で取り除くという簡単な手術でしたが、放っておくと癌になる可能性が高いということで、医師の勧めに従い予防的な治療として切除することにしました。
実は今年の春にも脳のMRI検査で小さな動脈瘤が見つかり、手術で対処したばかりだったので、「健康診断をするたびに手術するような羽目になるから、健診を受けるのも良いことかどうか」とぼやいていました。
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まあ、母の場合は年齢も年齢ですし、これまで検診というものを受けた試しがなかったので、そんな気になるのもわからないではありません。
しかし、最近は有名人ががんの手術をして話題となることがいくつかありましたが、割と短い期間で社会復帰しています。これらは、いずれも検診で早期発見できたからこそだといえます。
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世の中には、検診など受けず、健康に気をつけていなくてもそこそこ平均寿命までは生きて、自然死のように亡くなっていく人がたくさんいると思いますが、実際はがんにかかっていてもそれが進行する前に寿命が尽きただけで本人も気づかずにいたというケースも多いと思います。
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しかし、皆が皆そのような幸運に恵まれるとは限りません。健診を受けて予防措置をしておけば、まだまだ頑張れたのにと悔やまれる人たちがたくさんいるのも
事実です。40代、50代という人生の盛りで脳卒中や癌などで身体に深刻なダメージを負い、残りの長い人生を本来のパフォーマンスの何分の一かしか発揮で
きずに生活せざるを得ない人もたくさんいます。この人たちの中には、もっと早い時期に健診を受けていればと悔やんでいる人も多いでしょう。
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健診を受ければすべての病気が予防できるというものではありませんが、受けることによりリスクをかなり軽減できることは確かですし、医学は確かに日進月歩です。早期発見できればがんもさほど恐ろしい病気ではないというのが医学界の常識のようです。
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しかし、国の検診についての取り組みには首をかしげざるを得ません。会社では、雇用主に対して社員の年に一度の検診を強制していますが、その内容はかなりいい加減なものです。だまっていると、ただX線をとり血液と尿検査くらいしかやりません。また、血液検査でもがんを見つけるための腫瘍マーカー検査などは
オプションで、こちらから別料金を払って指定しないとそこまでの検査はしてくれません。ようは、お仕着せの検査はかなりざるなチェックしかしないのです。
このようなことから、健診を受けても病気が見つからないなどと不信感を持たれるのでしょう。
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しかし、それでも会社に勤めていれば曲がりなりにも毎年検査を受けることになりますが、家庭の主婦にはそのような強制力が働かないので、何年も検査をしたことがないという人がかなりいるようです。私の家内も今年、ようやく十年振りに検査を受けたくらいです。
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ここ数年、国はメタボリック対策を強化して、男性は腹囲が85cm以上あると生活指導を受けるようになりました。これは、肥満を放置しておくと糖尿病にか
かる確率が高くなり、糖尿病になるとその患者に対して国が支払う医療費が莫大なものになるからです。国民医療費は増加の一途をたどり、保険制度が破たんす
るのを防ぐために予防医療に力を入れているのです。
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よくストーカー被害や児童虐待などが伝えられますが、警察は犯罪が起きて初めてそれに対処するという傾向が強いように思います。逆に犯罪を予防するという点では動きが鈍いです。医療に関しても同じようなことが言えると思います。
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国は国民に対してきちんと健康診断を受けさせるべきで、そのための費用も健康保険適用にすればよいと思います。また、一人ひとりの既往歴や年齢に応じて検
査も細かく医師が管理すべきです。そして、そのような健診をクリアした人には生命保険料もそれなりに安い価格で入れるようにすればよいのです。健診を受け
たくないという人には、それなりのリスクが潜んでいるとみて、保険料を高く設定すればよいでしょう。
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病気が発症(つまりリスクが顕在化)したときに治療にかかるコストに対して予防にかかるコストは10分の1で済むでしょう。そのようにすれば、国全体の医療費を下げることになると思います。