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サラリーマンは夢のない職業か?

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前回は「ナチュラルボーンサラリーマン」というテーマで話しましたが、ここで話した「サラリーマン」とは、広義の、会社に所属してサラリーをもらう人のことを言っているのではなく、会社のヴィジョンや理念には無関心で、かといって自己実現しようという向上心も持たず、ただ生活のために自分の時間を切り売りして働いているタイプの人のことを皮肉って言ったものです。だから、国民のために奉仕するなどという理念は持ち合わせず、己と自分の組織の存続だけを目的として税金を無駄遣いする役人なども同類と言えるでしょう。

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私も学校を卒業して7年くらいはサラリーマンでした。それと同時に素人バンドを組んであちこちのライブハウスで演奏していたのですが、そんな20年くらい前のある時のエピソードです。毎月のように出演させてもらっていた吉祥寺のライブハウスがありました。そこではオーナーの趣味で、まだマイナーなお笑い芸人を集めてライブ寄席のようなことをやっていました。そのライブハウスで何かのイベントがあり、常連である我々のようなロックバンドやお笑い寄席に出演している芸人たちを招待してくれてパーティーが催されました。招待客の中に、私もそのライブハウスでコントを見たことのある、少しキャリアの長い、つまり若手とはいえないお笑いコンビがいました。

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パーティーの中でそのコンビのリーダー格のBさんとはじめて話しをしましたが、ちょっとした自己紹介などをした後に、私たちが会社勤めをしながらバンドをやっていると話すと、彼はそれまでのなんとなくフレンドリーな感じから急に態度を変え、早々に離れていきました。まるで、勤めながら遊びでバンドやっているような奴らは俺たちの仲間じゃない、というような態度でした。

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パーティーの後半、かなり座も乱れてきたころに我々から少し離れた所からBさんの話し声が聞こえてきました。相方、といってもおそらく後輩でしょうが、その彼に向ってBさんがこんこんと語っていました。「俺たちは、今は売れない芸人かもしれないが、いつかブレークして見ろ、大変な金が転がり込むんだぞ」、「その辺のサラリーマンは、」(と言ってこちらを見たような気がしましたが)「毎日上役にペコペコして、たかが知れた給料もらうだけなんだ、それに比べておれたちの仕事は夢があるとは思わないか?」相方の方も恐ろしいくらい真剣にBさんの顔を見つめて「ハイッ、ハイッ」と答えています。そこには、言葉にしなくとも「俺もその野望を抱いて、どんなにハングリーでも頑張っていきます」という態度がにじみ出ていました。

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はたから見れば、修業時代の芸人の若者群像という感じでしょうが、引き合いに出された我々としては面白くもありません。我々だってただ漠然と生きているわけではなく、自分たちの出来ることを精一杯やっているわけで、他人から蔑まれるような生き方をしているわけではないのですから。さて、サラリーマンとは、彼が言うように夢のない仕事なのでしょうか? もちろん、彼は世の中のサラリーマンをどうこう言っているわけではなく、そのように定義付けすることで自分たちのモチベーションを高める方便としていたのでしょうが、その引き合いとして、まじめに働き、幸福に生きている人達を貶めるようなことを言うのはナンセンスだと思います。

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私はサラリーマンも経験し、今は小さな会社の経営者ですが、勤め人だから面白くないとか、社長だから特別だなどということは全くないと思います。会社勤めをしていると、会社のルールや上司に縛られて自由がないというように思われるかもしれません。しかし、一国一城の主、つまり社長になれば何でも自由にできるのでしょうか。いや、そうではありません。社長であっても得意先では頭を下げなければなりませんしお客の顔色を見ることも必要です。新卒採用に当たっては、学生さんに対して是非うちへ来てくださいと平身低頭することもしばしばです。銀行との付き合い、商工会などでの同業者との上下関係など、さまざまな制約があります。どんな大会社の社長であっても、売れっ子芸人であっても、人間が社会生活を営む以上さまざまな制約があります。

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「ねずみの嫁入り」というお話があります。ねずみの親が娘の嫁ぎ先として世界で一番強い相手を探すという話で、最初は太陽のところへ行きます。しかし太陽が言うには「自分を遮る雲のほうが強い」と言います。それで雲に話を聞くと、「自分を吹き飛ばす風のほうが強い」と言われます。そして風は「自分を通さない壁の方が強い」と言います。一番強いのは壁だということで壁のところへ行くと、壁は「自分をかじって穴をあけてしまうお前たちねずみのほうが強い」と言うのです。そしてねずみの娘はねずみのところへ嫁入りするという話です。「隣の芝生は青い」という格言にも通じますが、どうしても比較するときに相手のいい部分だけを見てしまいがちです。

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私にも苦い経験があります。私たち常連が溜まり場としていた飲み屋がありました。時々新顔が増えたりすると、もともと音楽好きが集まる店だったので音楽の話題などでお互いにすぐ仲良くなったものです。そんなある時、私の知らない客の男性とちょっとお話を始めました。何かしら共通の話題になるような接点はないものかと思い、「お仕事は何をされているのですか?」と尋ねました。彼は「塗装工です」と答えました。私は仕事での接点が無さそうだなと少し落胆し、それが顔の表情に出たのかもしれませんが、彼はすかさず「今、(塗装工と聞いて)鼻で笑ったでしょ」と突っ込んできました。私はぎくりとして青ざめました。彼は気のいい人間で、別に私を非難したり喧嘩を吹っかけようなどと考えていたのではなく、多少自虐的な意味合いを込めてユーモラスに言ったので場は白けずに済みました。私には、すぐに相手の社会的立場などを聞こうとする癖があると気付き、改めねばならないと思いました。相手と会話を楽しむならば、好きな酒はなにかとか、月に何回くらいこの店に来るのかなど、ライトな話題にしておけばよかったのに職業を尋ねて深手を負ってしまいました。

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有名な寓話で「レンガを積む三人の男」の話があります。ある街でレンガを積んでいる3人の男を見かけて「何をしているんですか?」と声をかけます。すると、一人目の男は「見りゃわかるだろ、レンガを積んでいるんだ」とにべもなく答えます。二人目の男は「ここに壁を作っているのさ」と答えました。そして三人目の男は希望に満ちた表情で「私は教会を作っているのです、完成したら人々が集まり皆の役に立つような立派な教会になりますよ」と答えました。

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大きな教会だろうと小さな教会だろうと、本人の夢がそこに込められているのであれば、その人は自分の夢の実現のために働いている幸せな人だと言えます。傍から見てサラリーマンでも塗装工でも社長でも、その人の心のありようによって単なる労働者にもなりますし、夢を実現している挑戦者にもなるのです。

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